追悼06 根深い隠蔽体質

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追悼06 根深い隠蔽体質

 学校から通報を受け、警察が到着した時には桜子は川に飛び込んだ後だった。警察は桜子を救護した後、その場にいた美帆たちに事情を聴いた。グループのリーダーを自負する美帆が取り乱すことなく証言した。  「あの子は、お母さんからの虐待を苦に、飛び込もうとした。それを止めようとしていた」  警察は、美帆の証言の信憑性を疑った。目前で起きた事に対して美帆の冷めた証言やそこにいた若者たちの何事もなかったような態度は、違和感しかなかった。しかし、万が一を考え、連絡を受け駆け付けた静江の接見を事実関係が判明するまで禁止した。その誤解は桜子の携帯にあったメールや動画を警察が探り当て解ける。美帆の証言の裏付け捜査は、美帆の思惑に反して、多人数によるイジメを発覚させる結果となった。また、遠目ではあったが、少女が十人ほどに囲まれ、一人で川に飛び込んだ。その後、助けることもなく、各自携帯電話をその少女に受けていた、と言う証言を得ていた。これをきっかけに、イジメ問題が世間に露呈し、マスコミも注目することになる。  警察が本格的に介入したことを悟った兼昆敬校長は、定年後の再就職の心配と国政進出を目論む仁支川紘一・旭川市長に迷惑を掛けないための対応に全神経を注いでいた。狭い地域である。権力・勢力図は、至極身近にあったのは言うまでもない。    「誰だ!警察に通報した奴は」  「それは…」  「ああぁ、誰でもいい。馬鹿なのか、そいつ。何とかしなければ、厄介な事になるぞぉ。このままだと俺の人生は終わりだ。どうする、どうすればいい…。そうだ、保護者さへ抑え込めば、警察も騒がないだろう。確か担当は旭川中央警察署の少年課だったな。うん、あそこの署長と市長は知り合いだから何とかなるだろう。よし、取り敢えず保護者の抑え込みだ」  「どうされるんですか」  「世間に流れている事柄は全てデマだと分からせるんだ、プリントを配布しろ」  「はい」  「事件ではなく…、そうだな安全な文化祭実施のお知らせ、でどうだ」  「はい、では、早速対処致します」  名嘉山健司副校長は、面倒くさい業務は他人に投げるのが日常だった。文章は、国語だろうとプリント作成を任されたのは、現代国語の教師・小泉康太だった。康太はいつもの事と校長・副校長に忖度した文章を作成した。  「(前略)さて、先日、地元情報誌に本校に関わる記事が掲載されました。ありもしないことを書かれた上、いわれのない誹謗中傷をされ、驚きと悔しさを禁じ得ません。何より大事に守り育ててきた生徒たちの人格を平気で傷つけるような報道に心を痛めています(中略)学校並びに生徒に対する風評被害などが懸念されます(以下略)」  そこには、さり気なくイジメの問題を否定するものが含まれるのは当然のことであり、学校・生徒は悪くない、何事もなかった、桜子さんが亡くなったのとは無関係だと情報発信者・報道を全否定するものだった。そこには、兼昆敬校長とPTA会長の連名で配布されていた。可笑しいのは、PTA会長との連名だった。連盟される場合、PTAの保護者会が開かれるはずが開かれていない。保護者の承認なしの身勝手な配布物だった。   いわれのないのない誹謗中傷、風評被害。その原因を作っているのが事実を捻じ曲げ、自己都合の情報を流す側にある。  これはまさに立心共同党が浸透した地域に起こり得る日常の対策方法だった。立心共同党の本丸である国政でも与党の揚げ足取りにクレームだけで建設的な意見はなく、自分の党の不始末は、他人のせいにするか棚上げし、忘れ去る。挙句の果てには、こともあろうか失態を犯し、非難されるべき人物を優秀な人材と持ち上げ、公認し選挙を闘う。第二勢力の議員数を誇る政党でありながら、国のためになることは1mmも行わず、ゴシップ週刊誌でも取り上げないような事柄を膨張させ、国策の大事な時間と税金を浪費するのに勤しんでいる。このような党が第二政党であることが何より汚点ではあるが、支持者がいてのこの立場である事が嘆かわしい、それが地方のなせる業なのかもだ。
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