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二十分もすると、清潔になった少年が姿を見せたのだが、洋服を着たことがないのだろうか、セーターを後ろ前に着ていた。
が、敢えて教えもせず、女中が用意していた握り飯と茶を差し出した。
少年は椅子に座ると、礼も言わずに握り飯に齧り付いた。
品の無い食べ方にうんざりする。
いつもそうだ。浮浪少年、少女は餓鬼のように食べ物に喰らいつく。下品で見るのが嫌になる。
と、その時女中が来客を告げた。
「長瀬隼人様と仰る方がお出でです」
「長瀬隼人? どんな奴だ?」
喉の辺りまで出ているのだが、どんな男だったのかが思い出せない。さほど親しくない相手には違いなかった。
「あの……紅い髪の……」
「あぁ、あいつか。通してくれ」
大学時代の先輩だった。
学部も学年も違うが、時々、弓道場で会った。
混血の派手な男で、どう見ても日本人には見えない容姿を道着に包んで、静かに、弓を引く姿を思い出した。
学業優秀で、女遊びには興味を示さず、真面目なだけのつまらない男だったと記憶している。
どうして今頃、何をしに来たのか?
「やぁ、久しぶり。突然申し訳ない」
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