ねえ、千鶴、逃げようよ

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「具体的に何するの?」 「そうね、まず話し合ってみないと――」 「だから、そういうことやられて殴られるのはあたしだよ? 責任か何か知らないけど勝手に首突っ込んで、そっちは気分いいかもしれないけど、あたしが殴られるって、わかってるの? 全然、全然ダメ。わかってない」  担任教師はぶたれたような、厳しい、そして悲し気な顔をした。それからまたあたしの手を握って、柔らかく優しく微笑みかける。それで、あぁこの人は大人なのだと感じ取った。弱く頼りない兵士ではない、もう、武器を持って自分の道を切り開いてきたものなのだ。貞晴やあたしのように狼狽えて、スマートフォンで検索したり、思ったことをとりあえず口に出すわけではない。考えて、あたしを労わろうとしている。  あたしはふてくされて唇を突き出しながら、大人の意見というものを待った。 「お母さんにそうされて、先生たち……大人たちを信用できなくなっているのね。でも、先生はあなたを叩いたりしません。あなたを殴らせたりもしない。信じてみて、先生たちは、社会は、あなたたちの幸せを願って、こうして、学校にやってくるのよ」 「幸せ?」  あたしはふんっと嘲笑して、立ち上がった。 「信じてみてって、千鶴のこと勘違いしてる先生たちを信じられるわけないじゃん!」 「梶原さん?」  なんでその名前が出てくるの? といった様子の先生にしまったと思ったけど、あたしは引っ込みつかなくなって「保健室で話してることだよ! 馬鹿!」と怒鳴りつけると、今度こそ職員室を出て、追いかけてこられないように必死になって走った。階段の途中でとまって、はぁはぁと息をつく。それから担任教師が追いかけてこないことを確認すると、ゆっくりと教室へ向かう。  教室の中へ入ると、貞晴がいた。千鶴の姿はない。貞晴は足音に振り向くとあたしに気づいて、手をぶんぶん振った。 「千鶴と帰ったんじゃないの?」 「気持ち悪いって、トイレに駆け込んだからさ。そこまで付き合うわけにはいかねえじゃん。女子トイレだぞ」 「そっか、そう……」  自分のカバンを持って帰ろうとすると、貞晴に呼び止められた。 「お前、呼び出されてたけど、どうしたんだよ」 「え……千鶴とサボってたんじゃないのかって聞かれて……そのあとはあたしの家のこと話してた」
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