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貞晴はつっかえたり、どもったりしながら「千鶴が父親に性的虐待を受けていた」と言い「それを助けるために子供シェルターを紹介したら、死んでしまった」と説明した。あたしは今更ながら恐ろしいことをしてしまった、心に鍵をかけていた女の子の傷口を開いてしまったのだと思い知って、空いた手で頭を抱える。先生は貞晴の話を聞き終わると、まだ信じられないような顔をして「本当なの?」と言った。
「本当に、その、梶原さんからそんな話を聞いてたの?」
あたしは首を振る。
「頼子は、助けてって手紙をもらったから、家に、家に、家に行ったら、梶原が、は、裸で、父親のベッドに眠ってたんだ」
「それだけで、そう……性的虐待だって、言えるのかしら」
どうしてこの人はそんなことを言うのだろう。あの現場を見てないからだろうか。
「おれは見てねえけど、梶原の胸にはキスマークがいっぱいあった。足にも……。父親がつけたんじゃ」
「恋人につけられたとは聞いてたわ。恋人が誰かは絶対に言ってくれなかったけど」
そう言って担任教師は貞晴を見る。この期に及んでまで、担任教師は父親ではなく――貞晴が――つけたのではないかと疑っているのだろうか。あたしはわかってくれない大人に、憎さが増して、喉のあたりが熱くなってきた。でも声がでないので、あたしはカバンからノートを取り出すと、千鶴の死んだ理由まで勘違いされるのは嫌だと、千鶴の言葉を書き込んで担任教師に見せつけた。震える字は汚いものだったけど、あたしは一生懸命だった。
「千鶴は、父親が恋人だって言ってた。愛し合ってるからするんだって言ってた」
続いて、
「だから子供シェルターのことを教えてあげた。千鶴は、異常じゃないし犯されてるわけじゃないって否定した。でもあたしは、異常だよって被害者だって教えようとした。だから死んだ」
あたしの文章を見て、担任教師はうんうんと頷いた。
「それで飛び降りたっていうのがわからないのよ。助けてあげようとしてって、どうして助けがあるのに、飛び降りるのかしら」
「梶原は……苦しそうだった。最後も耐えきれないって言ってた。だから、耐えきれなくて死んだ……んじゃないのか?」
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