ねえ、千鶴、逃げようよ

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 あたしは泊まるまでしなくてもと思ったけど、頷いた。一人じゃこのままどうにかなってしまいそうで、怖かったからだ。貞晴も布団に入ってきたので、あたしは脇に寄る。少し前まではぴったり二人して布団に収まっていたんだけど、今は貞晴が少し成長したせいで、かなりきつい。  あたしは布団で寝っ転がって、天井を見つめて、とても眠れそうになかったんだけども、気づいたら頭がぼんやりとしてきた。そのまま、あたしは夢の中に入ってしまう。  夢の中には千鶴がいた。泣き虫なあたしの友人がいることに安心して、あたしは千鶴に呼びかけた。 「千鶴……大丈夫だったの?」 「何が?」  泣き出しそうなあたしに向かって、千鶴は首を傾げて明るく微笑んでくれる。  いつもの千鶴だ。何も変わらない、あたしの千鶴だ。  あたしは安心のあまりに抱き着こうとするが、どうしてか壁のようなものがあり、千鶴には近づけない。千鶴は困ったような顔をして、あたしから離れて行ってしまう。あたしは見えない壁に張り付きながら、千鶴の名前を呼ぶ。でも、千鶴は振り返ってはくれない。 「千鶴、千鶴、そっちにはいかないで! こっちに帰ってきて!」  千鶴はそのまま両手を広げて、すぅっと吸い込まれるように前のめりになって――  あたしは悲鳴を上げて、飛び起きた。  ちっちっちと秒針の動く音が部屋の中で響いている。心臓は激しく動いてうるさいぐらい体の中で鼓動を鳴らしている。あたしは荒い息を整えながら、きょろきょろと心もとなく周囲を見回した。悪夢の破片が背中に張り付いていて、幽霊でもついてるんじゃないかってくらい、ぞっとした冷たさを潜ませている。時刻はまだ十二時だった。意外と眠れてしまえた自分が、なんだか裏切り者のように感じて、心が痛む。  千鶴はあたしたちの目の前で死んでしまった。  もう首を傾げて笑う千鶴とは会えない。  泣き出してあたしを困らせる女の子は、もういない。  それは実感を伴ってあたしを苛む。  また寝転がろうとして、隣に貞晴がいることに気づいた。そういえば泊まるって言ってたっけ。貞晴の様子を見ると、眉を寄せて、歯を噛みしめているようだった。 「貞晴……貞晴」  あたしは貞晴を揺さぶる。呻き声を上げて貞晴の目がかっと見開いた。はっと息を吸って、浅く吐き出す。あたしの顔を見ると、弱々しくシーツに視線を落とした。
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