ねえ、千鶴、逃げようよ

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 これがあたしの殺人の話だ。  あたしは、千鶴を、友達を追い詰めて殺してしまった。  千鶴の父親とは別の罪を背負ったことは忘れない。  あたしは罪の償いももうできずに、納得しないまま生きていく。  貞晴と検索した結果、千鶴みたいな女の子は世界中にたくさんいることを知った。ある人は耐えきれずに死んでしまったり、そしてまたある人はネットで苦しみを吐露したりする。その子たちが助かるかどうかはわからない。惨めな兵士は息を殺してこの世界をサバイブしている。  あたしだってどうなるのかわからない。児童相談所の人が来て政子さんと話し合うのだろうけど、ひどくなるのか、軽減するのか。でもあたしは生きていこうと思う。死んだ兵士は死んだ兵士で、死体を処理されずにただ風化していくだけだから。  今日も兵士はどこかで世界と戦っている。殺される子と生き延びる子がいる。千鶴の死をあたしはやっぱりどうにも処理できないまま、罪として抱いていく。  この世の中には耐えきれずに死んでしまう子もいる。自分が何をされていたのか受け止めきれずに、被害者になりきれずに、助けすら致死性の毒のように回ってしまう子が。そのことを、あたしは千鶴に教えられた。  ある日、貞晴と放課後に残って話した。 「結局、梶原には何もできなかったな」  あたしは頷いて、もう机すら残っていない千鶴の居場所を眺める。 「千鶴は生きる気がなかったんだ。だからもう何もできないのは当たり前なんだよ」  死んでしまっては、生きている側が何をしようとしても、何もできずに終わる。  この世の中はそうやってできているのだ。 「…………」  貞晴は少し考えて、かっこつけてきざったらしく言った。 「生き延びようぜ、頼子」  あたしは頷いた。あたしは生き抜いてみせる。死んだってどうにもならない。死体はそのままにされ、透明人間のように誰も目を向けないだけだ。千鶴が、教えてくれた。  あたしはこの問題を抱えながら生きていく。さめざめと泣いて、どうしたのなんて他人に聞かれて慰められるようなことはしない。  誰にも語らず、千鶴という救えなかった魂を胸に抱いて、成長する。  あたしは人を殺した。  ようなものだみたいな軽い話じゃない。間違いなく追い詰めたのはあたしだから。  忘れない。この世のどこかに死んでしまって、どこにも行けなくなった子供たちがいることを。  あたしの魂は、罪とともに、サバイブしていく。
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