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あっと言う間に…火曜日が来た。
その間も、映くんは毎日メールをくれて。
あたしも、最近は…少しずつ、映くんに質問を投げかけるようになった。
『映くん、誕生日はいつ?』
『5月10日。朝子ちゃんと数字が反対だろ』
『え?あたしの誕生日、知ってるの?』
『知ってるよ。10月5日。プレゼント何が欲しい?』
来週、あたしは誕生日を迎える。
22歳。
本当なら…結婚したであろう二十歳をとっくに過ぎたけど…
もう、そんな事を考えても、悲しくなくなった。
…映くんのおかげだな…
「お邪魔します。」
夕方、約束通り…映くんが来た。
「へー…」
映くんが、ぐるりと部屋を見渡す。
「あ…あの…あまり見ないで…」
狭い部屋だけど、持ち物は少ない。
引っ越した時、あまりのシンプルさに寂しくなった。
それで…今日は花なんか飾ってみたけど…
「花があるっていいな。」
「…ほんと?普段は飾ってないけど、あまりにもシンプル過ぎるかなと思って…」
「俺が来るから飾ってくれたんだ?」
「え…っ…」
「…サンキュ。なんかマジ…朝子ちゃんには癒されっぱなしだ。」
そう言って、映くんはあたしの頭を撫でた。
う…うわ…
あたし、真っ赤になってないかな…
しばらくテレビでも見ててもらう事にした。
「DVDプレーヤーとか持ってないんだ?」
「あ、うん…あたし、テレビが自分の部屋にあるのも初めて。」
「そっか。じゃ、今度一人暮らし祝いでプレゼントする。」
「…え?」
「一緒に映画見たりしたいし。」
「……」
な…なるほど…!!
DVDプレーヤーって、そんな素敵なアイテムだったのね!!
「あっ、でも…それって高いんじゃ…」
「半分は俺が使うわけだし。気にしなくていーよ。」
「……」
半分は俺が使う…って、何だか嬉しかった。
いつも来てくれるって事…?
食事の支度が出来て、テーブルに料理を並べる。
あたしは何がいいかなって散々悩んで。
「おー、ハンバーグ。」
「男の人って、だいたい好きだ…って職場の人に聞いたから…」
『あずき』でおかみさんに聞いたら、そう言われた。
「うん。好き。美味そ。」
映くんは座布団に座って『いただきます』って手を合わせた。
「うん。上手い。」
一口食べて、そう言ってくれて…
あたしはホッとすると同時に…自分がすごく笑顔になってる事に気が付いた。
笑顔になれるって…幸せな事だな…。
楽しい食事を終えて、片付けをしてる間休んでてって言ったのに。
一緒に片付けたら早く一緒に休めるから。って…映くんは片付けを手伝ってくれた。
優しいな…
何だか、夢みたい…
「誕生日、どこか出掛ける?」
食後に紅茶とフルーツを出して。
それを食べてる所で…映くんが言った。
「映くん、仕事は?」
「俺はどうにでもなるから。」
「そうなの?」
ステージを見る限り…すごく上手いって思ったけど。
音楽に疎いあたしは…あのステージを見ても、映くんのバンドのCDすら買ってない。
CDプレイヤーも持ってないしな…
…よく考えたら、失礼だ。
明日、仕事に行く前に…CDショップに寄ってみよう。
「朝子ちゃん。」
見つめられてる事に気付いて…ドキドキした。
「は…はい…」
「部屋に男を呼ぶって、結構危ない事だって分かってる?」
「……」
部屋に男を呼ぶのは…危ない事…
…はっ。
「あっあの、あたし…」
「俺はいーけどさ。」
「え…?」
「他の奴、気軽に呼んだりすんなよ?」
「…よ…呼ばない…」
「ならいい。」
「…あの…」
あたしがうつむくと、映くんは少し距離を縮めて。
「俺と付き合う気になった?」
あたしの顔を…覗き込んだ。
「……」
無言で、コクコクと頷くと。
「…はあああああ…」
映くんはすごく長い溜息をついて。
「良かった…すっげー嬉しい…」
そのまま…あたしの膝の上に頭を乗せた。
「えっ…」
あたしが驚くと。
「…ごめん。少しだけ。」
そう言って…映くんは目を閉じた。
ど…どう…したら…?
あたしは少し悩んで…
…映くんの、髪の毛に触れた。
映くんのまぶたがピクッと動いたけど…目は開かなかった。
あたしはそのまま、髪の毛を撫でてみる。
…人前に立つ仕事って…
ストレス溜まりそうだよね…
大変なんだろうな…
「…朝子ちゃん。」
しばらく頭を撫でてると、映くんの目が開いた。
「あ、は…はい…」
「…キスして。」
「……えっ…」
「キス。」
「……」
あ…あたしから!?
付き合い始めてすぐ、あたしからって…
ハードル高い!!
「あ…あの…か…体が固いから…無理かな…」
膝に居る映くんを見下ろして、苦笑いしながらそう言うと。
「ふっ。上手く逃げたな…」
映くんは鼻で笑って…また目を閉じた。
は…
はああああああ~…
どうしよう…
緊張の連続…!!
しばらく膝枕をしたまま。
あたしは…テレビ画面を見つめてた。
内容なんて、さっぱり分かんない。
視線はそこにあっても、全然別な事を考えてたんだもん…
今夜…って…
映くん…もしかして…泊まったり…しちゃうのかな。
あたし…どうする?
もし…求められたら…
…きっと…
応えちゃうよね…
だって。
映くん、あたしの事好きって…言ってくれた。
あたしも…
好き…と思う。
ドキドキ感は、海くんの時と変わらないけど…
海くんの時と違うのは…映くんがすごく積極的で…
でもそれが嫌じゃなくて…
ああ、あたし…想われてるのかな…って。
映くんの頭を撫で続けてると…
「…すー…」
「……」
これ…
もしかして映くん…本気で寝てる…?
こ…こういう時って、どうしたらいいの?
起こすのは可哀想だし…
でも…あたし…
あ…足が痺れてきた…
……あー!!駄目だ!!
「えっ映くん…っ…ごめん…」
あたしは映くんの頬をピタピタと触る。
「…ん…あ…悪い…落ちてた…」
「気持ち良く寝てたのに、ごめん…」
あたしが苦しそうな顔をしてるように見えたのか、映くんは慌てて。
「どうした?何かあったのか?」
あたしの足に触れたまま、起き上った。
「あっ…」
「え?」
つい…変な声を出してしまって…
映くんが驚いた顔をする。
「あ…ご…ごめん…変な声出して…」
恥ずかしいー!!
「足が…痺れちゃって…」
両手で頬を押さえてそう言うと。
「…今の声、もっと聞きたい。」
「え…」
映くんは…あたしをゆっくり…押し倒したかと思うと…
「…朝子ちゃん…」
目を見つめられて…
ああ…もう…あたし…絶対応えちゃうよ…って…
「あっ…!!」
いきなり、痺れた足を触られた。
「ふっ…。」
「も…もー!!」
恥ずかしくて映くんをポカポカと叩くと。
「ははっ。ごめんごめん。あまりにも可愛くて、意地悪したくなった。」
映くんは悪びれる風でもなく、笑いながらそう言った。
「俺は早速でも構わないけど、朝子ちゃん、抵抗あるだろ?」
映くんはそう言いながら…すごくさりげなく…あたしに腕枕をして横になった。
…至近距離でそんな事言われると…
流されちゃいそうになるよ…
あたしが唇を噛んで答えに悩んでると。
「…朝子ちゃんの誕生日、泊まりに来ていい?」
映くんは…断れないような色っぽい目で…そう言った。
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