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僕の役割
「はぁ。今日も、か……。面倒くさっ」
週明けの登校初日。
年季の入ったスチール製の下駄箱の前で、誰に訴えかけるでもなくそう呟く。
こうして上履きの中に雑に放り込まれた画鋲の山を見るのも、最早朝のルーティンになりつつある。
溜息を吐きつつも、いつものように取り除こうとすると、ふとつま先部分に描かれたデッサンに目が行く。
どうやら今日については、取っておきのオマケ付きのようだ。
『シスコン、キモい』
『近親相姦男・天ヶ瀬 燈輝』
高校1年にもなって、何とも古典的で芸がない。
どうせやるなら、もっと凝って欲しいものだ。
近頃の日本人はクリエイティビティが落ちてきていると言うけど、こんな場面でもソレは如実に現れてしまうものなのだろうか。
はてさて。どうしたものか。
生憎、コレほど低コスト・低品質な芸術品を晒しながら、校内を闊歩できるほど精神的に強くはない。
「……もう今日はスリッパ、だな」
僕がボソリと溢した悲哀に満ちた言葉は、梅雨の湿った空気が充満する昇降口に虚しく鳴り響いた。
我ながら無様だとは思う。
僕がこのような目、所謂世間で言うところのイジメを受けるようになったのは、一ヶ月前に起こったある事件がきっかけだ。
今思い出すだけで、胸糞が悪いというか、なんと言うか……。
とは言え、今更こんなことを嘆いていても仕方ない。
全ては成るように成った結果だ。
恨むなら自分の運命を恨むしかない。
「んじゃ、早いとこ職員室行くかな……」
僕は無残な姿に成り果てた上履きを置き去りに、職員室へ向かった。
靴下越しに味わう廊下の感触は、雨に濡れたことも相まって酷く冷たく感じた。
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