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「ニア、たのしい?」
「……別に」
期待していた答えが帰ってきてむしろ嬉しい。最初こそこの態度には戸惑ったがニアは少し反抗期なくらいが子供らしくて丁度いい。らしさ、なんてものは押し付けたところでいい事なんてひとつもないから、こんなことは口が裂けても言ったりはしないのだけれど。
「この、えっと、ビル……だっけ。ってやつはさ、人の上に人が住んでたの?」
「ああ、そうだね。部屋がいくつも上に重なった形になっているからこれだけ縦に細長いんだ。もちろん上に人を住まわせない形の家もあったけど世界全体で人口爆発が起きた頃には人々の住処はほぼ全てがビルだったよ」
ニアは傾いたビルを上から下まで眺めて物珍しそうに話す。
「田中、前に言ってた。魔法を使える人は上じゃなくて下に住んでたって」
「うん。私ら魔法使いには地下の方が性に合ってたんだ。陰気臭い地下室の方が魔力が溜まるし、実験や練習にもうってつけだったからね。まあ、今はもう本当に少ししか力は残ってないけど」
そう言って足元にある砂で花を形作ってニアに見せた。ニアはこんな花でも凄いと褒めてくれるけど、本当はもっとすごいものを見せたかったんだ。本物の花だって咲かせられたんだよ。
この砂だって、私たち魔法使いが抑えきれていた頃はまだ少なくて、一人一人と減っていった魔法使いに伴ってそれを抑える力だって減っていった。もう食い止められないところまで砂が街を覆って、ついに人間たちは魔法使いを狩り出した。きっとここらに残る魔法使いも身を隠しているか全て狩られ死んでいったかのどちらかだろう。
不思議な話だね、ずっとこの街を、この世界を守ってきたのは魔法使いなのに。無限にあると思って使い果たした資源や生命を守ってもらえなくなった途端に怖がられ狩られてしまうだなんて。なんて、酷な話なんだろう。
人間は勝手だ。だから嫌いだった。それでも、全てが悪いわけではないことも、知っていた。だからかな、ニアに手を差し伸べたのは。あれが本当に気まぐれだったのか、時間が経つにつれて分からなくなってくる。欲していたのではないか、自分を受け入れてくれる人間を。そしてそれがニアだった。私しか頼る相手がいないニアは私にとって都合が良かったんだ。けど、そんなことニアは知らないままでいい。人間の愚かさも、私が手を伸ばした理由も知らないまま、知りたいことだけを知っていけばいい。
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