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外は今日も雨のように砂が降っていた。時折強くなる風が砂と共に私達を強く打つ。ゴーグルやマスクでは覆いきれず、さらけ出されていた頬がチリチリと痛む。砂で抉られ少しづつ削られていく身体。まるで雨ざらしの私たちは、今日、どこへ行こうか。
「久しく傘を差してないねぇ」
「かさ?」
独り言のつもりだった。ニアが返事をしたことで独り言が声になっていたのだとようやく気づく。一人で言葉遊びをする余裕はあっても人と話す気分ではなかった。が、形としては語りかけてしまったのだからワガママに言葉を閉ざすというのも勝手すぎるだろう。斜面になっている砂の上を必死に歩きながら着いてくるニアに仕方なしに答えをやる。こんな時、一人だった頃の自由さに思いを馳せてしまうのは、酷く冷たい人間だから、だろうか。いや、それとも人々から恐れられた魔法使いだから、かな。
「人ひとり分のスペースだけを雨から守る道具さ」
そう伝えながら、開かれた傘の絵を砂の上に描く。私の下手な絵で伝わるかは疑問だが、これしか方法がないのだからしょうがない。
「好きだったの?」
絵を見るのも程々に、ニアは前のめりになって質問をする。私の絵の下手さに少しは言及してくれてもいいのだけれど。まあ、それはいい。ザッザッと足で傘の絵を消して、無かったことにした。それにしてもニアは核心をつくのが上手い。そして、それはとても痛い。ニアの言葉で揺らいだ心を落ち着かせ、その動揺が伝わらないように少しゆっくり歩きながら話す。
「ああ。あの中にいると何故だか安心したんだ。今じゃ雨なんて降ることはないし、傘なんて使うことも、もうないだろうけどね」
まるで反抗期そのものの言い草。ニアそっくりだ。これじゃあニアにはバレてしまっているかな。これだけ降る砂の雨ですら隠せないほどのセンチメンタルが。
「どこかに落ちてないかな、傘」
「え?」
「そしたら、差せるのに」
「雨も降っていないのに、かい?」
なんて馬鹿なことを言うんだ、そう思った。所詮子供なのだと、そう無理やりに思うことでニアの大人びた考えに巻き付かれないようにしたかった。
「うん。中に入ると落ち着いたんでしょ?それなら、雨が降ってなくても中に入れば今だって落ち着くかもしれないから」
「……そうだね。歩きながら、探してみようか」
ニアはどこまでも物事を真っ直ぐに見つめる。だからこんなふうにして、ふと人を救うような言葉が出てくるのだろうか。だから、私が欲していたものが、憂鬱でセンチメンタルなこの現状の根っこが、ニアには分かってしまったのだろうか。
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