かさ

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 骨組みだけになった傘の中、こんな傘では何も防げないまま、されどそれでいい。二人並んで降らない雨から身を隠し、お互いのことを話し、聞く。そんな雨宿りがこの砂漠の地でできるだなんて思ってもみなかった。そうか、私は逃げていただけなんだ。降らない雨、ならば傘なんて必要ないと、そう思っていたんだ。勝手に彼女が成長していってしまうのなら、対話は必要ないと思っていた。  雨が降らなくても雨宿りはできた。  彼女が成長し続けるとしても、私を知ってもらわなくていい理由にはならない。    「ニア、ありがとうね」  返ってこない答えに横を見れば泣き疲れたのか力を抜いて肩にもたれ掛かるニアの姿。  「はは、可愛い顔が台無しだ。ごめんね、ニア」  伝えられなかったありがとうは、ごめんねは、またニアが起きたら話そうか。  骨組みだけの傘に当たる砂粒の音が、いつだったか聞いた懐かしい雨の音に重なり、心地よい。もう少しだけ、そう言い訳をつけて私も目を閉じた。
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