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さよなら
あの日以来、私達はたくさんの話をするようになった。ニアの「何故」に答えるだけでなく、私からも「何故」をぶつけていった。昔のことや、今考えていること、気になるお互いのことを、歩みのテンポを取るように淡々と話していった。だからかな、あの時感じた窮屈さは無くなって、今はただ歩くのが楽しいんだ。
ニアとずっとこうしていられたらいいのに。
そう思って陰る心の中。もうじき私はきっと駄目になる。それを知ったらニアはどうするだろうか。一人で生きていけるように色々なことを教えてきたつもりだけれど、こんな砂漠の中で本当に生きていけるだろうか。話し相手がいなくなって寂しい思いをしないだろうか。
「田中、また無理してるでしょ」
「バレるかい?」
「バレバレだよ」
「んー、歳かな」
悟る。ほらニアだって言わないこと、あるじゃないか。私の先がそう長くないことをニアだってとっくに悟っていて、それだけは聞いてこようとしない。ごめんね、そうさせているのは私なのに。
「魔法、全然使えないんだっけ」
「この姿を保つことと、あとはこの前見せたようなちょっとした造形、くらいかな」
「元の姿に戻ったら力を使い続けなくてもいいから楽になるんじゃないの?」
「それがそうもいかないんだよ。元の姿に戻ったら、歩くことすら億劫でその辺での垂れ死ぬだろうね」
「そういうもんなんだ」
「そういうもんなのさ」
今日はやけに風が静かで不気味なくらいだった。それでも同じように、行く宛てもなく歩くのが私達のやること。食料の為、水を確保する為、それよりも、歩くこと自体が歩く理由だった。私達は、歩く為に歩く。昨日歩いたから、今日も歩く。だから、明日も歩くのだ。その、明日がもし来なかったらニアに歩く理由が無くなってしまうのではないだろうか。私が死んだら、ニアはたった一人この地で、なにを糧に生きていくのだろう。ニアからの言葉に生返事を返して思考を掻き回す。そんな無意味な行動に疲れ果ててきた頃、スクラップ置き場の大きな廃材の元に日陰が出来ているのを見つけた。しばらく考えるのはやめよう、少し休憩して、それからまた考えればいい。
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