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ニアは九ヶ月ほど前に私がこの砂漠の地で拾い上げた。文字通り、ニアは身体のほとんどが砂に埋もれ、身動きが取れなくなっていた。小綺麗なフリルの着いた白いワンピースは捲れ上がり、私とは真逆の真っ白な長い髪が地面にふわりと広がっていた。そんな異様な「白」がこの砂漠の地のなかでぽっかりと浮いていて、まるでそこに何か花でも咲いているのかと思った。何が原因でそうなったのかは未だに知らないし教えてはくれないが、見つけてしまったからには放置しておくことも出来ずに手を差し伸べたのだった。人と出会うことが珍しいこの世界で、話し相手が見つかった、とも思った。ほんの気まぐれで差し伸ばした手に小さな手が頼りなさげに重なったのを今でも覚えている。聞けば歳は十歳、背丈は平均が分からないのでなんとも言えないがおそらく小さい方だった。そんな小さな、ましてや衰弱しているであろう子供を一人ここに残しておけば次の夜にはどうなっているか分からない。
「おいで。一緒にくればいい」
この私の一言から、今の二人旅が始まった。助けてもらったことに恩を感じたのか、最初こそ師匠、師匠、と私のことを無邪気な可愛らしい声で呼んで着いて回っていたがここのところは田中、と生意気な声で私のことを呼んでくる。子供の生意気さに触れるのは何十年ぶりだろうか。そんなふうにしてコロコロと表情を変えて成長していく子供、ニアに対して私は為す術もなく翻弄されっぱなしであった。
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