さよなら

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「ニア、そろそろ休憩にしようか……ニア?」  ニアの姿が見えない。さっきまで少し後ろを歩いていたのに。会話だってしていた。体調は悪そうには見えなかったし、けどどこかに落ちたりしたのかもしれない。なんにせよ早く探さなくちゃいけない。こんな炎天下の中で倒れていたら数十分ももたない。 「ニア!ニア!」  暑さの中で荒らげる声は喉をギシギシと締め上げる。無駄遣いできない水を少しずつ飲みながら辺りを探す。足跡を探すもこの辺には無く、探す方向を変えた方が良さそうだった。今日は風がないから、足跡さえ見つけられればすぐに後を追えるはず。何度も呼び続ける声にも限界が近づき、足元から力がフッと抜けそうになるのをなんとか持ちこたえた。 「……ッ、ニア!!」  坂を上った先に見つけたのは砂の上でうつ伏せになるニアの姿。駆け寄って声をかけようとするとニアが驚いた顔をしてこちらを見て首を傾げていた。 「ニア!なんで隣を離れたんだ。どれだけ心配したと──」 「わ、わたしちゃんと向こう行ってくるって言ったし、田中も返事してたじゃんっ」 「……え?」  いつか観た映画のように回想が入れ込まれる。あの時の生返事、あの時のニアの言葉。ああ、なんだまた私のせいか。 「田中さ、最近あんまりご飯も食べてないし、弱ってるのってそういうのも関係してるのかなって思って砂漠ネズミたくさん捕ってたの。一匹見つけたから近くに巣があるのかなって思って。ほら、こんなにたくさん取れたよ」  そう説明するニアを力強く抱きしめ、柄にもなく涙を落とす。 「良かった……無事で良かった……本当にごめん、ごめん」 「わ、いいよ別に。わたしももっとちゃんと声掛ければ良かったし」 「いや、ニアは何も悪くないよ。本当にごめん、ニア。良かった……私はもう何も誰も見送りたくないんだ、だから、良かった……良かった……」 「……田中?」  気が抜けたのか膝をつき崩れる体勢。ああ、もうこんなに早く終わりが来るなんて。
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