でんわ

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 照りつける太陽。じりじりと焼き付く暑さに汗が滲む。背が低いニアは必然的に地面から顔が近くなる。照り返しもそれだけ強い。普段なら平気かもしれないが今日はこの夏の中でも一位二位を争う暑さ、これではニアの身体がもたないかもしれない。せめて日差しだけでもと、自分の首に巻いていた日焼け防止用の布をニアの頭と顔に巻き付けた。案の定暑さにぐったりしていたニアは少し和らいだ暑さに安心したのか素直に礼を言った。少しくらい反抗していてくれる方がまだましだ。すっかり弱ってしまっているニアを見てそう思った。  ニアを拾ったのは冬だった。あの格好からしてどこかで隠れて暮らせていたのかもしれない。おそらく、残り貴族の一人かなにかだろう。ニアは話したがらないが、真冬にワンピース一枚で外にいること自体がおかしかった。夏は暑くとも、冬は冬で砂漠と化したこの街は嘘のように凍りつく。小さな身体で過ごすには、ましてやワンピース一枚で過ごすには無理があった。なぜ、とあの時を問いたくなる気持ちを抑えて後ろを着いて歩くニアの体調を優先する。 「田中……」 「ニア?」  もしかして、と焦って振り向けばしゃがみこみ砂に手を着くニアの姿。柄にもなく慌てふためく私を見てニアが笑う。 「大丈夫だってば。ねえ、これなに?」  ニアが指さす先にあったのはひとつの端末だった。おそらく、スマホの類だろう。 「色々な機能がついた電話、みたいなものだよ」 「でんわ……?」  そうか、ニアくらいの歳だともう電話も機能しなくなっていた頃に生まれているはず。この世界が砂で埋め尽くされ電波が通らなくなってからはこんな端末は役に立たなくなり、みんな次々に手放していった。ここにあるのも、そんなふうにして手放されゴミとなったものが流れ着いたものだろう。 「遠くの人と話が出来るんだ。姿も見えない遠くの人とね」 「すごい。どうして?ねえ田中、どうして?」  久しぶりに聞くニアの「どうして」。少し前まではなにかを見つける度に聞いてきていたのに。懐かしいな。
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