みえるもの

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みえるもの

 私達は相も変わらず照りつける日差しの中を歩いていた。この暑さでどうにかなる前にいい隠れ場所を探さないといけない。そんな焦りから歩みが自然と早くなる。 「──か、田中、ねえってば」  歩くことに必死すぎてニアの声まで聞こえなくなっていた私に、同じように必死そうなニアが呼び掛けていた。さっき耳に届いたばかりの、おそらく何回目かの呼び掛けでようやく振り返った私に、ニアがなにやら不思議そうな顔をして聞いてくる。 「大丈夫……?あ、あそこどうかな?ちょっと傾いてるけど向こうから入れそうだよ」  ニアが指さしたのは少し離れたところにある大きく傾いたビル。ほぼ倒壊していると言ってもいいだろう。なんとも微妙なバランスで保たれているその形は、かなりのインパクトがあった。けれど、今歩いてきた途中にあそこまでの存在感を放つビルなんてあっただろうか、と記憶を辿るがどれも曖昧で役には立たない。一体なんのための必死さだったのかと自分を責めつつニアの頭を撫でて褒めた。 「すごいよ、ニア。よく見つけたね。私なんて暑さですっかり周りが見えていなかったのに。傾いてはいるけど倒壊はまだしなさそうだし、うん、今日はあそこで泊まることにしようか」 「うん」  少し得意げな顔になったニアは私の先を歩く。大きく腕を降って一歩一歩、大きな歩幅で。
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