第一話

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「みんなー!こんにちはなのー!」  甘くて高い声が響き渡る。  ロックフェスには不釣り合いのフリフリのかわいい衣装の女の子がステージに飛び出してきた。女の子の呼びかけに対して、桃デザインのお兄さんが「うぉおおおおお!」って歓声をあげていた。  このお兄さんのお目当てはあの女の子らしい。 「何でロックフェスにアイドルが?」 「はやく次のバンド出せよ」  周りの人の空気がいやーになっているけれど、桃デザインのお兄さんは気にせずに声援を送っていた。あの女の子の名前は「たぉたぉちゃん」と言うらしい。親指ほどの大きさにしか見えないけれど、可愛い雰囲気がすごいする。声が可愛いもん。大型スクリーンに映った姿もとっても可愛い。金髪で、ところどころ空色のメッシュが入っている。可愛いなぁ。  急に、激しいパンクロックの演奏が始まる。  みんな、ビックリしてた。その子の歌唱力にも、引き連れたバンドメンバーの技術力にも、なんもかんもに、魅力された。  低音で響かせるようなシャウトをしてからのハイトーンの歌唱がすごくかっこよかった。アイドルって口パクで踊ってるんじゃないんだ。この子のように本当に歌いながら踊る子っているんだ。ところどころ乱れた息をマイクが拾うから、本当に歌ってるんだなって感じられた。すごいや……。  おれ、この子を応援したい! この子のグッズを買いたい! スマホで決済して、母ちゃんに怒られてでも応援したいって思えたんだ! 「また見たい」って思うくらい、すごいパフォーマンスだった。推しって、こうやって決まるのかもしれない。  胸がいっぱいになった。なんだか幸せな気分でいっぱいだ。  暑いし、お腹も空いてきたし、おれのお目当てのバンドの演奏も終わったし、おれは胸を高鳴らせながら、物販スペースに向かう。  たぉたぉちゃんの物販テントは何処だろ? テントはどれもおんなじくらい太陽で眩しく輝いて見えた。地域の運動会のように名前書いててくれたら良いのになぁ、と考えつつ、桃デザインのお兄さんの後ろを歩いていたら、お目当てのスペースに辿り着く。  けど、既に完売のポップがついていた。よく見たら、受注販売やってるって。救いだ! 救いの手がある! 「あ、あの!」  おれは勇気を出して声をかけた。ちょっと大声だったかも。フェスで爆音が響いてるから問題ないよね!  スタッフさんが振り向く。毛先に青いグラデーションの入った金髪の……お姉さんかな? お兄さんかな? どっちかわかんない。顔がすごく綺麗だ。さっきのアイドルとちょっと似てるかも……。
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