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おれがいた場所はもう違う人が場所取りしてた。でも、最初に一緒に盛り上がってたコワモテのお兄さんが「新参者に優しくしてやれよ!」って言ってくれて、良い場所を譲ってもらえた。
これがビギナーズラックって言うやつなのかも! 周りの人も歓迎してくれた。
その後は、激しい曲の時は、むぎゅむぎゅ押されたり、担ぎ上げられたりした。
初めてのことばかりで、すっごい楽しかった! またフェスに参戦したい!
家に帰って、お風呂入って、ベッドにダイブ!
父ちゃんも母ちゃんも仕事でまだ帰ってきてない。今日は遅番なんだったっけ? カレンダーにPって書いてあるから、遅番っぽい。
次は、たぉたぉちゃんのライブに参戦したいなぁ。ファンクラブをチェックしてみよっと!
たぉたぉちゃんのプロフィールが載ってた。身長140cm。ちっちゃい! ステージ上だとおっきく見えるのは、オーラとかなんかあるのかな? Cカップだって! 背がちっちゃいのにおっぱいはけっこうあるんだ! すごい! ますます推したくなっちゃう! おれの母ちゃんのほうがおっぱいおっきいけど!
ワクワクがおさまらないまま、母ちゃんが作り置きしてくれてた晩ごはんを食べて寝た。
それから一週間後、今日は父ちゃんも母ちゃんもお昼の勤務だ。おれは夏休みだから、ひとりでゲームしながら留守番してた。
夏休みの宿題は、夏休みが始まる前に終わらせたから、いっぱい遊ぶんだ。
おやつを取りにゲームを中断したところで、チャイムがピンポーンって軽やかになった。
「はいはーい!」
インターホンをつけて、相手を確認。
最近物騒な事件が起こってるから、すぐに出ちゃダメだって母ちゃんが言ってた。
「おきあみ運輸です。伊織夢夏さんにお荷物をお届けに来ました」
「はーい! 今出ます!」
おれ宛てって何だろ? と考えて数秒、フェスグッズだ!
おれは玄関までダッシュして、勢いよくドアを開いた。配達員さんがびっくりした顔してた。
「伊織夢夏さんでお間違いないですね? 印鑑かサインお願いします」
「あ、はんこ、忘れた!」
「では、サインお願いします」
配達員さんはボールペンを貸してくれた。てっぺんに桃がついてて、羽のチャームがついてるやつ。たぉたぉちゃんのグッズだ!
「お兄さんも、たぉたぉちゃんのファンですか!?」
「えっ、あ、いや、私は……」
「あれ? お兄さん、前にフェスで会ってる? たぉたぉちゃんの物販にいた……」
「あー……。そうですね、ロックフェスの物販手伝いならしていました」
たぉたぉちゃんファンの人に再会できるなんて運命かも。
お兄さんの右胸には、名札がついていた。夕顔 千歳って名前らしい。名前だけ見たら、男か女かわからないや。本人の逞しい腕を見なきゃわかんない。
「あのー、受け取って頂けますか?」
「あ、ごめんなさい! お兄さんに見惚れてた!」
「私に見惚れないで妹に見惚れてくださいよ」
「妹?」
「あ……。まあ、良いか。たぉたぉは私の妹なんです。では、ご利用ありがとうございました」
荷物を受け取ったら、お兄さんは引き返していった。
ちょっぴり照れたような感じだったから、なんだかキュンとしちゃった!
もしかしてこれって、恋かな!?
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