第二話

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 おれがいた場所はもう違う人が場所取りしてた。でも、最初に一緒に盛り上がってたコワモテのお兄さんが「新参者に優しくしてやれよ!」って言ってくれて、良い場所を譲ってもらえた。  これがビギナーズラックって言うやつなのかも! 周りの人も歓迎してくれた。  その後は、激しい曲の時は、むぎゅむぎゅ押されたり、担ぎ上げられたりした。  初めてのことばかりで、すっごい楽しかった! またフェスに参戦したい!  家に帰って、お風呂入って、ベッドにダイブ!  父ちゃんも母ちゃんも仕事でまだ帰ってきてない。今日は遅番なんだったっけ? カレンダーにPって書いてあるから、遅番っぽい。  次は、たぉたぉちゃんのライブに参戦したいなぁ。ファンクラブをチェックしてみよっと!  たぉたぉちゃんのプロフィールが載ってた。身長140cm。ちっちゃい! ステージ上だとおっきく見えるのは、オーラとかなんかあるのかな? Cカップだって! 背がちっちゃいのにおっぱいはけっこうあるんだ! すごい! ますます推したくなっちゃう! おれの母ちゃんのほうがおっぱいおっきいけど!  ワクワクがおさまらないまま、母ちゃんが作り置きしてくれてた晩ごはんを食べて寝た。  それから一週間後、今日は父ちゃんも母ちゃんもお昼の勤務だ。おれは夏休みだから、ひとりでゲームしながら留守番してた。  夏休みの宿題は、夏休みが始まる前に終わらせたから、いっぱい遊ぶんだ。  おやつを取りにゲームを中断したところで、チャイムがピンポーンって軽やかになった。 「はいはーい!」  インターホンをつけて、相手を確認。  最近物騒な事件が起こってるから、すぐに出ちゃダメだって母ちゃんが言ってた。 「おきあみ運輸です。伊織夢夏さんにお荷物をお届けに来ました」 「はーい! 今出ます!」  おれ宛てって何だろ? と考えて数秒、フェスグッズだ!  おれは玄関までダッシュして、勢いよくドアを開いた。配達員さんがびっくりした顔してた。 「伊織夢夏さんでお間違いないですね? 印鑑かサインお願いします」 「あ、はんこ、忘れた!」 「では、サインお願いします」  配達員さんはボールペンを貸してくれた。てっぺんに桃がついてて、羽のチャームがついてるやつ。たぉたぉちゃんのグッズだ! 「お兄さんも、たぉたぉちゃんのファンですか!?」 「えっ、あ、いや、私は……」 「あれ? お兄さん、前にフェスで会ってる? たぉたぉちゃんの物販にいた……」 「あー……。そうですね、ロックフェスの物販手伝いならしていました」  たぉたぉちゃんファンの人に再会できるなんて運命かも。  お兄さんの右胸には、名札がついていた。夕顔(ゆうがお) 千歳(ちとせ)って名前らしい。名前だけ見たら、男か女かわからないや。本人の逞しい腕を見なきゃわかんない。 「あのー、受け取って頂けますか?」 「あ、ごめんなさい! お兄さんに見惚れてた!」 「私に見惚れないで妹に見惚れてくださいよ」 「妹?」 「あ……。まあ、良いか。たぉたぉは私の妹なんです。では、ご利用ありがとうございました」  荷物を受け取ったら、お兄さんは引き返していった。  ちょっぴり照れたような感じだったから、なんだかキュンとしちゃった!  もしかしてこれって、恋かな!?
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