回る社長

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「タクシーを呼べ!」  バス停で、ずぶ濡れになった社長が叫ぶ。運悪く最終バスが十分前に行ってしまったらしい。 「何をボサッとしてるか! お前、傘持ってないのか!」 「すみません、持ってません。いまタクシー呼びます」 「ーーはい。山野タクシーです」 「一台、タクシーをお願いしたいのですが」 「あー、すんません。みんな出払ってて。予約してくれないと」  後ろで宴会でもするような音がする。 「えっ。一台も?」 「ええ。すんませんね」  ガチャリと切られてしまった。 「おい。何分後に来るんだ」 「すみません。タクシー来れないそうで……」  振り向くと、社長はどこから採って来たのか、大きなフキの葉を傘代わりに差していた。 「お前のもあるぞ」 「えっ、いや、私はーー」 「遠慮するな」  ぐいとフキの葉を押し付けられてしまった。 「おい、あれホテルじゃないか?」 「え?」   浮腫んだ太い指が指す方にホテルがあった。だが、ホテルはホテルでもラブホテルだ。 「社長、あれはちょっと」 「うるさい! 俺は心臓にバクダンがあるんだぞ! 死んだら化けてお前に取り憑いてやるからな!」
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