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枕元のスイッチを手当たり次第に押すと、天井のミラーボールがカラフルな水玉模様を放った。水玉模様の社長がくるくると回っている。
「ああ、地獄だ」
「あ? なんか言ったか?」
「いえ。私も風呂に入ってきます」
風呂に浸かると、やっと一人になれた気がしてほっとする。こちら側からは、部屋が見えないらしい。
「おい、これどうやったら止まるんだ」
社長の声に気づかないふりをしていたら、いびきが聞こえて来た。ゆっくり回りながら寝ている社長を想像して、思わず吹き出す。
社長はどうにかベッドの回転を止められたらしい。ソファーに寝転がり、使っていないバスタオルを自分にかけて目を閉じた。瞼の裏に、回る社長が焼き付いて離れないせいで、何度も目が覚めた。
「おい、帰るぞ」と言った社長の、妙に艶やかな顔に胸焼けしそうになった。
「バス、来ましたね」
「やっと帰れるな」
二人はバスに乗り込むと、一番後ろを陣取った。
「おい、俺の尻のデキモノを見たことは、誰にも言うなよ」
運転手がぎょっとしたように見えた。運転手には、遠ざかって行くラブホテルがミラー越しに見えただろう。
「絶対に言いません」
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