王子様現れる

4/12
前へ
/213ページ
次へ
❇︎❇︎❇︎❇︎ あの日は10月なのに今日みたいに暑い日だった。私の通う大学は9月まで夏休みなので、夏休み明けの10月は後期の講義が始まるため、校内はいつもより人が多かった。 それは学生達御用達の食堂も同じで、早めに講義の終わった友達に自分の分まで席取りを頼んでおかなければ、お昼に在り付けない状態だった。 [二人の席もとってるからね] 学部は違うが、同じサークルの友達からグループメッセージが来ていて、私は食堂に入り、キョロキョロと首を動かしながら、友達を探していた。理亜とも違う講義をとっていたので、その時は一人で行動していた。 友達を探すのに夢中だった。人混みがそんなに得意ではなく、食堂の人の多さにもちょっと酔っていた。 だから、前なんて見ている余裕はなかったのだ。 「危ない!」 そう声がして、私の目の前に180センチ近く背のある男が立ちはだかっていた。 「えっ?」 と呟いた瞬間、ドンッと男の胸の辺りにぶつかった。いや、正しくは胸ではない。胸の前に持っていた食堂のトレーにぶつかったのだ。 食べ終わって汁だけになったラーメン茶碗の乗ったトレーに。 すでに冷め切っていたのだけが救いだったかもしれない。そんなことある!?って突っ込みたくなるぐらい綺麗に、男はトレーを私に向かってひっくり返し、その日、私が着ていたシフォンのブラウスの全面にぶっかけた。 「うわっ!すみません!すぐタオルかなんか借りてきます!」 好青年なのだろう。「ちゃんと前見ろよ。」とか言わずに、すぐに謝って、隣にいた友達にトレーを預けて、食堂のおばちゃんのところにタオルを借りに走っていくのだから。 でも…… 私、白いブラウス着てるんだよ。中に着てるキャミソールとその下のブラジャーの肩紐が完全に透けている。 この食堂にはかなりの人数の学生がいるのだ。「うわっ。あの子、悲惨。」「こんなとこで迷惑。」って目で横を通り過ぎて行く人もいる。 大学生活が始まって半年。友達もできて、サークルも楽しくて、講義も興味を持って受けてきたのに。 ようやく大丈夫って思い始めてきたのに…… 私、このままじゃまた……
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!

795人が本棚に入れています
本棚に追加