795人が本棚に入れています
本棚に追加
河邑さんのお陰で私は無事にサークルのジャージに着替えることができた。ここの大学は体育会系の部活は熱心で、その部活に所属している人達は年中ジャージの人もいたりするので、校内でジャージ姿でいても、誰も気には留めないのだ。
河邑さんは私がサークル棟内で着替え終わるまでの間も、入口で待ってくれていた。そして、
「帰りに学生課に寄ってね。」
と言いながら、私に手を差し出した。
「えっ?」
「ブラウス。そのままだと染みになるよ。」
「あっ……。」
確かにブラウスには薄茶色の染みが広がっていて、今もラーメンの匂いがしている。
「帰るまでには乾くと思うから。」
……乾くと思う……?
「えぇっ!洗濯してくれるんですか!?」
「そんなに驚くこと?」
驚くことです。例えあなたが大学職員でも、そこまでしないよ。
「ジャージを着て帰るのも嫌でしょ?」
それはそうだ。それに、今日は講義終わりに駅前の個別塾で塾講師のアルバイトがあるのだ。さすがにジャージを着て生徒に授業をするわけにもいかない。
「よろしくお願いします。」
「確かにお預かりします。」
河邑さんはブラウスを手に、何事もなかったかのように、来た道を帰って行く。
「王子様だ。ピンチの時に助けてくれる王子様。」
私はその背中に思わず呟いていた。
最初のコメントを投稿しよう!