王子様現れる

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❇︎❇︎❇︎❇︎ それから半年、私は河邑さんに会うために、学生課に赴き続けた。もちろん、仕事の邪魔はしたくないから、1週間に1回、一息つけるであろう夕方頃に。 丸縁眼鏡の職員さん(田中さんと言うそうだ)とも、すっかり仲良くなって「美織ちゃんだー!」と、声をかけてもらえるまでになっていた。 河邑さんはいつも私を適当に遇らってくるけど、なぜか完全に拒絶はしない。多分、それは私がこの大学の学生だからだろうとは思う。 だから、いつも「質問!一つだけ答えて!」なんて言って、河邑さんのことを教えてもらった。 年齢は28歳(その時は27歳)で、大学にはバイクで通っていて、コーヒーとチョコレートが好きで、学生時代は陸上の棒高跳びをやっていた。 バレンタインの日には、有栖ちゃんの働くデパートでチョコレートまで買ったのだ。でも、河邑さんはいなかった。1月から3ヶ月研修に行っていて、その日もやはり不在だった。 不在だろうと思ったけど、もしかしたらって気持ちでチョコレートを買ったけど、もしかしたらは起こらなかった。 「私が河邑に届けてあげるよ。」 立ちすくむ私に田中さんが言ってくれた。「車でかっ飛ばしたら、研修所なんてすぐだから。」と。 「そんな、迷惑はかけられません。」 「いいの、いいの。ドライブがてら様子見をに行ってこいって上司にも言われてたし。だから、遠慮しないで。」 「……すみません。ありがとうございます。」 田中さんの好意に甘えさせてもらい、チョコレートは無事に河邑さんの手に渡った。 渡っただけでも満足だったのに、河邑さんを訪れた翌日に、田中さんは私にメッセージカードを渡してきた。10センチ四方の物で、色は水色だが、無地のカード。 [チョコレートありがとう] 丁寧な字でそれだけ書いてあって、でもその一言がこれでもかってぐらい嬉しくて。やっぱり河邑さんは王子様だって。 そのメッセージカードは今も手帳に挟んで、時折見返したりしている。
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