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「口、開けろよ」
快楽の火照りから解放され ようやく微睡んできたというのに、彼は私にそう命じた。
身体も心も、全てを手懐けられた男には従順になってしまうのか、唇が無意識のうちに上下に開かれる。
そこに放り込まれたのは、数粒の金平糖だった。
「ん、何、」
私は甘いものが苦手だ。
ましてや砂糖の塊なんて。
吐き出そうとして 咄嗟に掌で口を覆うと、彼は笑いながら私の手の上から自分の掌を押し付けた。
「む、ぐっ」
条件反射によって舌で転がされ 私の口内を彷徨いながら、尖りを持った砂糖の塊が頬を刺激していく。
「今日 誕生日だったよな?これ、俺からのプレゼント」
付き合って初めての誕生日に、期待しないわけではなかった。
けれど、何事にも無頓着なこの人が覚えているはずがないと諦めてもいた。
記念日やイベントなんて関係ない。
傍にいられるなら、それでいい。
この先の未来を この人と二人で歩いていけたら、それだけで──
「保険屋のおばちゃんが、たくさんくれたんだ」
「お前にやるから、いらないなら捨てといて」
「こんなの持って帰っても、うちの嫁 喜ばないし」
何度も言ったよ?
甘いものが苦手だって。
何度も訊いたよ?
本当に独身なんだよね、って。
噛まずに無理やり飲み込んだ金平糖は、きっともう尖ってはいないのに
内側から、容赦なく私を抉り出す。
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