あーん

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あーん

「おぎゃあ、おぎゃあ」 「うわぁん」    突然揃って泣き出した双子の声に驚き、慌てて駆け寄りながら時計を見るといつもごはんをあげている時間はとっくに過ぎていた。    いけないいけない。うっかりしてた。    来週に迫ったお誕生日、どんなご馳走にしようかと考えて夢中になっていたみたい。だって初めてのお誕生日だもの。   「ごめんね、お腹空いたよね」    言いながらふたりの寝ていた布団を覗き込む。話しかけても分からないと思うけれど、ついひとり言のように声を出してしまう。だけどいつも、わたしが話しかけると嬉しそうに笑うから、意味が分かっているとか分かっていないとか、そんなことはどうだっていいのだろう。ほら、今も笑ってる。さっきまでおなかがすいたと訴えるように泣いていたのに。   「さぁさ、ごはんにしようね。はい、あーんして」    小さなスプーンにごはんを掬い、顔を真っ赤にしている夏南に差し出す。いつも最初に何かを欲しがって泣き出すのはこの娘の方。勝ち気な子になりそうだとわたしも夫も思っている。だけどすぐに機嫌を直し、笑い出すのも夏南から。ころころと忙しなく変わっていく表情はどれも可愛らしく、飽きることなく見てしまう。  その隣に座る明生に視線を向けると、いつものように大人しく待っていた。物欲しげにこちらをじぃっと見、夏南が口を動かすのと同じ動きでもぐもぐしているのに、いつも静かに順番を待っている子だった。その静けさに甘えていつも夏南からと、先に手を伸ばしてしまう。   「ごめんね、明生。もうちょっとだけ待っててね」    せめてもと顔を向けて声をかけると、嬉しそうににこっと笑って口のもぐもぐを続けていた。  本当に、話していることが分かっているみたい。そう思うとより一層愛おしさが増すように思えた。さっきまで色々と目まぐるしく考えたりバタバタと家事に走り回っていたけれど、この子たちを正面から見ていると途端に時間はゆっくりになるようだ。   「ふたりとも可愛い、いい子ね」    揃って口を開けて待つ双子に、ついぽつりとそんな言葉が出ていた。
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