ありがとうのお菓子

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ありがとうのお菓子

 "ありがとう社"は、有名な大手お菓子製造会社。ありがとう社のお菓子は、とても美味しいと評判だ。  みんな、もちろん私も、ありがとう社のお菓子が大好きだった。お菓子を買うときいつもありがとう社の商品を選ぶほどだった。  ある日、私たちは学校の社会科見学でありがとう社のお菓子工場を訪れる。  ところが工場に入ったとき、みんなはとても驚いた。 「ありがとう、ありがとう……みんなを笑顔にしてくれるお菓子たち……ありがとう」  お菓子に隠し味を付け足すかのように、工場中に"ありがとう"の言葉がずっと放送で流され続けていた。  実はそれこそが、ありがとう社のお菓子の美味しさの秘密だったのだ。 「"ありがとう"という言葉は不思議な力を持っているんだ。 たとえばお菓子を作るとき。 完成してすぐ食べても本当は美味しいんだ。でも、食べる前に心を込めて"ありがとう"って声をかけると、もっと美味しくなるんだよ」  "ありがとう"という言葉の隠し味が、某社のお菓子をさらに美味しくしていると、工場の人が語る。 「"ありがとう"は他の場面でも力を発揮するんだ。 機械が壊れて動かなくなったとき"今まで休む間もなく働いてくれて、ありがとう"って言うと、機械が治っちゃう。 それから、体をケガしたときも"私の体さん、しっかり動いてくれてありがとう"って言うと、案外早く治る。 言葉はただの道具じゃない。言葉には、物にも人間の心にも働きかける力がある。 "ありがとう"を言えば言うほどいいことが増えて、自分も元気になれるし楽しい気持ちになれるんだ」  工場の人の説明を生徒たちはみな夢中ながらに聞き、うなずく。  見学が終わり生徒たちは、工場の人たちからお土産にお菓子の袋と「言霊実験セット」をもらう。  実験セットの内容は、たった二枚の小さなパンだけだった。 「片方のパンには"楽しい""ありがとう"など明るい言葉をかけ、もう片方には"邪魔だ""不味い"など暗い言葉をかけてください。日にちが経つにつれて驚くべき変化が起こりますよ」  最後に生徒たちは元気よくお礼を言った。 「ありがとうございました」  家に帰り私は、土産のお菓子を味わって食べた。やっぱり美味しい、最高の味だった。 「今日のお菓子も美味しかったです。ありがとう、ごちそうさまでした」  続いて、先程の実験セットを用いて実験を始めた。工場の人の説明通りに、片方のパンには明るい言葉を、もう片方には暗い言葉をかけた。これを何日も続けていくうち、本当に驚くべき結果になった。  明るくポジティブな言葉をかけられた方は日に日に美味しそうになっていく。結果は腐るのが遅れ気味で、匂いも普通よりマシだった。むしろ食欲をそそられる匂いがした。  一方、暗くネガティブな言葉をかけられた方は腐っていった。その速度も日に日に速くなっていく。結果、悪臭を放つほどに完全に腐敗してしまう。  言葉というのは本当に魔法だったのである。ただ、魔法といってもその使い方を誤ることがあってはならない。魔法の力は強力だからこそ、薬にも毒にもなり得るのである。 「大切なことがわかったよ、今日もありがとう」 おわり
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