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人間のなる木
ある会社の社長は、意地悪で自分勝手だ。
他人に厳しいくせに、自分にだけは、本当にものすごく、甘い。
一日十時間以上、しかも安い給料で、社員を働かせている。ほぼ毎日残業をさせ、休日すらも与えなかった。
さらに、辞めたいと訴える者がいれば、怒鳴り脅して、無理矢理会社にとどまらせたこともあった。
しかし一方で、自分はというと、遊びで散財したり、大きな豪邸を建てたり、度を越して贅沢な生活を送っていた。社長だからといって、偉そうだ。まさに酒池肉林だ。
ところが、贅沢な日々の中、社長は悪夢を見るようになった。
りんごの代わりに卵がなる、不思議な木があった。
その卵からは、大人の人間が出てきた。奇妙な光景を目の当たりにして、社長は思わずにやつきながら、ある企みを思いつく。
「やつらに大きな豪邸を建てさせよう」
卵から生まれた人間たちを、自分の社員、いや、奴隷として、長い時間ずっと働かせ続けたのだ。
「お前ら、ぐずぐずしないで働け」
道具を運んだり材料を積み上げたりと、奴隷たちがいやいや肉体労働をするかたわら、自分一人だけはろくに働かず、飲み食いしたり、遊び呆けたり、くつろいだりと好き放題。そのくせ奴隷の一人が何か不満を言うと、偉そうに怒鳴り出す。
「うるさい。いいから、さっさと働け」
それから、何時間もずっと遊び続けたのち、社長は建設途中の豪邸の様子をのぞいた。
なんと、工事現場には、誰一人も奴隷がいなかった。
「あいつら、黙って勝手に逃げたんだな」
仕方なく、新たな奴隷を呼ぶため、社長はまた卵のなる木の様子を見に行った。
ところが、今度は、木に卵が実っていなかった。
「卵よ、出てこい。人間、出てこい」
社長はお願いしながら木を揺すった。
すると、大きな物体が落ちてきて、社長の頭上に衝突した。
甘ったるい蜜の香りがただよい、虫の羽音が聴こえてくる……物体の正体は、蜂の巣だった!
「誰か! 助けてくれ!」
大混乱の社長は、容赦なく怒り狂う蜂の群にただただ追いかけられ続けたのだった。
まったく同じ夢を、社長は何日も見続けた。もっといえば、毎回寝るたび、必ず見た。
社長はもう嫌になり、悪夢を見ずに済む方法を調べては実行したが、どれを試しても、まったく効果がなかった。できる限りのことをしたはずだが、すべてがだめだった。
やがて社長は気持ちよく眠れなくなり、体調不良を引き起こすようにまでなった。
今日も風邪を引いたので、会社を休み、自宅の豪邸で大人しくしていた。
「どうしたら、嫌な夢を見ないで気持ちよく寝れるのだろう」
社長は信頼できる執事を呼び、悪夢のことを話し、相談した。
執事は話を聞いて、何か思いついたようだった。それから、社長に言った。
「その夢は、予知夢のようですね。近いうちに悪いことが起こるのでしょう。例えば、どこかの誰かの恨みを買って復讐される、とか」
一瞬、社長は動揺した。しかしすぐに怒り調子で言い返した。
「そんなことはない。私は何も悪いことをしていないぞ、冗談はよしてくれ」
楽をして何が悪い。贅沢をして何が悪い。
自分は何も悪くない。全然悪くない。
社長は、自分は絶対に正しいと思い込んでいた。
数日後、社長の豪邸で襲撃事件が起こった。
数十人ほどの集団が叫び声を上げながら、敷地へ侵入してきたのだった。
「ボイコット! ボイコット!」
おわり
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