制約の牢獄

1/1
前へ
/160ページ
次へ

制約の牢獄

 私は今、捕まっている。恐ろしく危険な怪物に捕まっている。怪物は決して離してくれない。  私は今、牢獄にいる。絶望と苦痛に捕まっている。この牢獄からは決して逃れられない。  しばらくの間、この暗い牢獄で、私は苦しみ続け、泣いていた。  それから長い時間が経つにつれ、私はとある事実に気づき始めた。  捕まっていたのは、私一人だけではなかったのだ。  大切な人も、知らない人も、この世のすべての人が、捕まっていたのだ。  恐ろしい怪物とは違う、"何か"に。  ……捕まる、と言えば。  お姫様が化け物に捕まるとか、あるいは、甘い誘いに騙されて悪い人に捕まったり、逆に悪いことをして警察に捕まったり。時には、運悪く動物用の罠に捕まる、とか。  いずれにせよ、身体を縛られて身動きが取れなくなる。そんな怖いイメージがあった。  しかし実際、身体を縛り付けられなくても、何でもかんでも自由にできる、というわけにはいかない。  現実世界では、ルールや法律を守らなくてはいけないし、大半の人は毎日学校や会社に行く。  つまり、現代の人間はみんな知らないうちに、ルールや法律、学校や会社に捕まっていたのだ。  そして中には、面倒くさい人間関係や忙しいスケジュール、世間の常識に捕まる人や、心を縛られる人もいる。  ではもし、ルールや学校から逃れられたらようやく真の自由が手に入るのか、とも考えたが、やはり違うことがわかった。  仮に、ルールも学校もない自由な世界に住んでいたとしても、地球の引力、月と太陽の影響からは決して逃れられないからだ。  ルールと学校は人間が作ったものだが、地球と月と太陽はそうではない。  逃れるということは結局、そう簡単にできるものではないのだ。  この世のすべての人は、必ず何かしらの"制約"という名の怪物に捕まっている。  制約は一つだけにとどまらない。むしろ一度に何個も背負うのが当たり前だ。お金、体質、寿命、義務……制約には、実に色々な種類がある。  そして、制約は人それぞれ違うものの、ほとんどの場合において、簡単に逃れることはできない。  しかしそれでも、多くの人はそれぞれの制約を受け入れ、自分なりに制約と向き合って、生きている。  ……私も今、この暗い牢獄の中で、恐ろしい怪物に怯え、ただ泣いていた。  でも、もう私は諦めない。  この牢獄から逃れることは決して容易なことではないし、目の前には恐ろしい怪物が立ちはだかるだろう。  それでもいつか必ず、光が見える時を……希望を信じて、私は諦めない。 「怪物になんか、負けない」  困難に立ち向かい、生きる決意を固めた。 おわり
/160ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加