醜い人魚

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醜い人魚

 人魚の王様は悩んでいた。  王様には年頃の娘がいた。  娘は、生まれた瞬間から今に至るまで、周囲の者から強く愛されてきた。  また、海の世界における絶世の美女と言われるほど美しいと言われていた。  にも関わらず、当の娘は「私は太りすぎているから、本当は周りの人みんなに嫌われているかも知れない」と、自分のことを劣等視しすぎていた。  自信を持てない娘に対して、王様をはじめとする周囲は何度も必死に説得、否定してきたものの、娘には一切通じなかった。  王様の悩みはそれだけではない。  もう一つの悩みとは、娘の結婚相手にふさわしい男性がいつまで経っても見つからなかったこと。  ある日、王様は焦りのあまり「早く結婚相手を見つけなさい」と、姫に対して厳しい言い方をしてしまう。  仕方なく姫は結婚相手を探しに城を出るも、どれも美男ばかり、歌も上手い人ばかり。  探せば探すほどどの人を選べば良いのか分からなくなり、とうとう姫は投げやりになってしまう。  しかし姫はすぐに城に戻るのではなく、次は、薬を売る魔女の店へ向かった。  姫は店で、魔女に「自分はどうしても痩せたい」と思っていることを話した。  すると魔女は、『神秘の谷』のサンゴを取ってきてくれれば、痩せ薬を作ってやろう、と言った。  こうして姫は、神秘の谷へ泳いでいった。  その直後、今度は若い男の人魚が店を訪れてきた。  若人魚は困り顔で、魔女に事情を話す。  おじさんのように老け顔、歌も音痴な若人魚は見た目の醜悪さから、周りの人魚たちに軽蔑され、見下ろされていた。  挙げ句の果てに、「人魚おじさん」という酷いあだなを付けられてしまったという。  そのような仕打ちが毎日のように繰り返されていたので、徐々に若人魚は落ち込み自信をなくしていってしまっていた。  話を聞いた魔女が「ここからかなり遠い場所にある、神秘の谷にあるサンゴを持ってこい。そしたら美形になる薬と歌が上手くなる薬を作ってあげよう」と言うので、若人魚は早速神秘の谷へ向かうのだった。  途中、若人魚は先に行っていた姫と出会う。  痩せる薬を作ってもらうため、神秘の谷を目指していたという姫に対して、若人魚は「姫は既に痩せていてきれいで、自分よりはるかに美しいから、今更痩せる必要はないのに」と意見を述べる。  しかし姫は「いいえ、私はとても太りすぎているから、痩せなければいけない。貴方よりも太っている」と耳を貸さない。  その時突如、大きなサメが二人に襲いかかる。  慌てふためく若人魚。  しかし、若人魚は致命的に歌が下手だった。  その酷い歌は獰猛なサメを苦しめ、大波を生み出すほどの凄まじい威力を秘めていた。  若人魚は歌うことで、サメを気絶させることに成功する。 「助けてくれてありがとう」  若人魚の勇敢さに惹かれた姫は、若人魚に感謝した。  ところがこれで終わりというわけにもいかなかった。  いつの間にか復活したサメが、姫を食べようと猛突進。  そうはさせまいと若人魚は姫の前に立ち塞がり、盾となった。  結局サメは怯んで逃げていったが、若人魚は大きく傷ついた。  姫は歌った。  姫の歌声は、海の世界一番の美女に相応しいほどに美しく、優しく、穏やかで、傷を癒す力をも秘めていた。  歌に込められた治癒能力によって、若人魚は少しずつ回復していく。 「あなたは素敵です。どんなに太っていても、痩せていても、醜くても、美しくても。あなたは素敵です。優しい心を持っているからです」  いつしか目を覚ました若人魚はそう言ったあとに「ありがとう」と姫に感謝した。  姫はとても嬉しそうだった。  結婚相手に相応しい男性がついに見つかったのだ。 「それはあなたもまったく同じでしょう。本当にありがとう」  二人は結局、薬を飲まなかった。  その後王様は若人魚に、娘との結婚を認めた。  こうして二人は結ばれ、幸せに暮らしたという。 おわり
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