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1 (語り:フェル)
――1日目――
「おい、フェルっ! 下りて来てくれ! 急げっ!!」
現場監督のゲイリーが下から3階にいる僕に怒鳴った。その切羽詰まった声に、直感的にリッキーに何かが起きたのだと思った。
飛ぶように階段を駆け下りる。何人かが囲んでいるその中にリッキーが倒れていた。周りに血が飛び散っている。
「リッキーッ!!!!」
僕は手前のダグを突き飛ばすようにその足元に膝を落とした。抱き抱えようとしてそばに座り込んでいるゲイリーに腕を掴まれた。
「様子が分からない、下手に動かすな!」
「どっかから落ちたんですか!?」
「いや……」
リッキーの右腕を指差した。腕の付け根にぎっちりとタオルが食い込んでいる。でもそれは赤いタオルだった。
「縛ったんだけど血が止まらないんだ、時間もだいぶ経ってるみたいで……」
「一体、何があったんですか!!」
「フェル、分からないんだよ、アートが来た時にはもう倒れてたらしいんだ」
リッキーの腕を掴んだ、溢れる血が指の間を伝う……そばに立っているアートを見上げた。
「フェル、俺にも分からないよ。叫び声が聞こえたような気がしたんだ、『やめろ!』って。あれはリッキーの声だったと思う。俺、すぐ下りれなくて……」
「じゃ、誰かがケガを負わせたってことか!?」
そばにいるブライアンが僅かに目を逸らした。
「ブライアン!!」
「俺……何も……」
その間にもリッキーの顔から赤みが消えていく。上着のボタンが千切れていて前がはだけている。何が起きたのかなんて聞く必要もないくらいだ。
その時気がついた、リッキーのチェーンが無い。目を走らせて頭の脇に落ちている切れたチェーンを掴んだ。指輪が無い。
「救急車は!?」
「呼んだ、もうすぐ来る!」
「……ふぇる……」
「リッキー! 聞こえるか、ここにいる、分かるか!?」
ゆっくり目が開いて震える様な声でリッキーが囁いた。焦点が合ってない。
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