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21XX年。 その時代になれば外傷的な傷であれば治せないものはないと言われていた。 そして心傷的な病気も、ほとんどが基本は治るだろうと。 それがいつか訪れるだろう未来の医学───。 「トーカ、あなたが好きな花よ」 「お、それはブルースターだね。トーカはよく絵に描いてたなぁ」 カプセル型の酸素器、その中で目を閉じる青年が眠り続けて数年。 それは温度、水圧、湿度、すべてが調節されるという最新医療技術。 その中であれば、たとえ植物状態の人間であっても外見は綺麗に成長しつづけていた。 きらびやかな青色を放ちつつも小ぶりに咲く花束を眠る息子の傍に見せた女。 隣に座っていた父親と思われる男もまた、懐かしむように目を細める。 「―――――相良(さがら)さん、」 失礼します、と。 新たに病室に入ってきた1人の医者。 それまで広がっていた柔らかい雰囲気が途端に冷たいものへと変わってしまったのは。 決して、この男性医師に怯えているわけではなかった。 この主治医はとても優しく、最後まで、文句の仕様がないくらいに尽力を注いでくれた。
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