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「…トーカくんの今後は決まりましたでしょうか」
彼もまた険しい表情だった。
その中にある、悲しみ。
「…先生、もし、人工知能を埋め込むとなると……やっぱり記憶はすべて消えてしまうんでしょうか…?」
「…はい。今までそうしてきた患者たちはみんな…ヒトであったときを忘れていました」
「そん…な……、」
「けれど、生きられるんです。」
戸惑う両親の覚悟を決めさせるかのように、医者は強く言い切った。
それは彼にとっても“相良 トーカ”という患者は特別だったからだ。
まだ17歳、とても絵が上手な男の子だった。
この時代ですら治療法がない原因不明の難病を抱えていたとしても、それを受け入れ、朗らかに笑っていた。
こうして生きている今、その命がまた繋げるならばその方がいいじゃないか───と。
「……先生、お願いします。この子を…AIにしてあげてください」
涙ぐむ母親の背中を支えながら父親は顔を上げて、そして頭を下げた。
「――――わかりました。」
もう、長くはないこと。
それを親側も医者側も分かっていたのだ。
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