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「だれ、デスカ。ボクハ、だれデスカ」
「…トーカ、あなたの名前は“相良 トーカ”っていうのよ。私たちはあなたの両親」
「―――記憶シマシタ」
青年の瞳孔が赤色に光った。
それは脳内に声、音、顔、言葉、そして意味をインプットしている合図。
「トーカ……っ、」
けれど親にとっては、どんな姿となっても子供は子供。
12歳のときに発症した原因不明の難病。病名すら名付けられていないそれと、息子は5年も戦ってきたのだ。
そして15歳から植物状態。
眠り続けたままだった我が子が目を覚まして、声を出している。
親にとってはそれがすべてだった。
「つめたい…、けど、あったかい……、生きてるわ、生きてるのよトーカ…っ、ねぇあなた、」
「あぁ…!生きてる…、よかった……っ」
身体はつめたい。
声に抑揚がなければ、表情ひとつ変えず瞬きすらしない。
それでも───生きている。
涙を流して抱きしめ続ける両親を、機械となった青年は無表情のまま瞳に映し続けた。
ふと、ベッド脇に置かれている青い花を見つける。
「コレハ…なんデスカ、」
「ふふ、ブルースターよ。トーカがずっと好きだった花」
「…ブルー、スター…」
そしてまた瞳孔は赤色に染まる。
インプットが完了されると、青年は大好きだった花からスッと顔を逸らした───。
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