5/6
前へ
/252ページ
次へ
「だれ、デスカ。ボクハ、だれデスカ」 「…トーカ、あなたの名前は“相良 トーカ”っていうのよ。私たちはあなたの両親」 「―――記憶シマシタ」 青年の瞳孔が赤色に光った。 それは脳内に声、音、顔、言葉、そして意味をインプットしている合図。 「トーカ……っ、」 けれど親にとっては、どんな姿となっても子供は子供。 12歳のときに発症した原因不明の難病。病名すら名付けられていないそれと、息子は5年も戦ってきたのだ。 そして15歳から植物状態。 眠り続けたままだった我が子が目を覚まして、声を出している。 親にとってはそれがすべてだった。 「つめたい…、けど、あったかい……、生きてるわ、生きてるのよトーカ…っ、ねぇあなた、」 「あぁ…!生きてる…、よかった……っ」 身体はつめたい。 声に抑揚がなければ、表情ひとつ変えず瞬きすらしない。 それでも───生きている。 涙を流して抱きしめ続ける両親を、機械となった青年は無表情のまま瞳に映し続けた。 ふと、ベッド脇に置かれている青い花を見つける。 「コレハ…なんデスカ、」 「ふふ、ブルースターよ。トーカがずっと好きだった花」 「…ブルー、スター…」 そしてまた瞳孔は赤色に染まる。 インプットが完了されると、青年は大好きだった花からスッと顔を逸らした───。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加