卒業

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 朝練を終えて教室へ来たけど、まだ岡崎の姿はなかった。  バスケのインターハイは毎年12月の末に行われ、うちのバスケ部のレギュラーはその二ヶ月前に発表される。  毎日必死で練習していた。いつでも試合に出れるようにと、レギュラーじゃない時でも朝練をして、部活終わりもみんなが帰った後で練習していた。  そのせいか、教室に入ってしばらくすると意識が飛んだ。  机に両腕を組んでそこに頭を預けると、一瞬で眠りについていた。 ーガラーッー  古い教室のドアは、どれだけゆっくり開いてもそれなりに音が鳴る。  遠い意識の中でも、それが誰のものなのかは一目瞭然だ。  起きなきゃ……と思うのに、覚醒するのにはまだ時間がかかりそうで、そのままやり過ごす。  しばらくすると、何となく人が近づいて来るのを感じて、思わずギュッと目を閉じた。  そっと前髪に触れられていることに気づく。 (これって、どういう状況……?)  触れられていることが嫌だと感じることはないけれど、置かれている状況を把握することは出来なくて、だからといって突然目を覚ますことも難しくて、結局またその場を嘘寝のままやり過ごすことを選ぶ。  いつ起きていると気づかれるだろうかと緊張で心臓がバクバクしている。 「高城……」  聞こえるか聞こえないかの小さな声で、岡崎が俺の名前を呼んだ。次の瞬間、触れられていた前髪が持ち上げられ、おでこに何かが当たった。 「んーっ」  無意識に口から言葉が漏れてしまう。マズイと思って黙りを決め込みながら、それが唇だと気づくのに、それほど時間は掛からなかった。  離れて行った岡崎は、自分の席に着くと窓の方へと顔を向けている。  俺はしばらくその後ろ姿を体勢を変えないまま見つめていた。  そして触れられたおでこに、そっと触れる……  理由を問いたいけど、それはしてはいけないことだと脳からの指令が全身に伝わる感じがして、ギュッと拳を握ると、いつの間にか両手で頭を抱えて顔を伏せてしまっている岡崎に声を掛けた。 「岡崎、おはよう」  一瞬ビクリと肩を震わせた岡崎だけど、頭を抱えていた手を移動させると、顔を上げてこちらを向いた。 「お、おはよう。高城……」 「俺、完全に寝落ちしてたわ」 「そうみたいだね」 「明日、レギュラー発表なんだ。だから必死」 「そうだったんだ。レギュラー取れるといいね」 「ああ」  正直、レギュラーになれるかどうかなんて自信はない。  だけど、そんな不安を見せることは出来なくて、いつも通りの笑顔を向けて親指を立てると、岡崎も笑顔で親指を立ててくる。  今は理由なんて考えない事にしよう。こうして過ごす時間が俺は嫌いじゃない。 執筆時間…3月6日、6:50〜7:45
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