卒業

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 特に話をする訳でもなく、ただ見つめることしかできない日々。それは仕方ないことだと思っていた。  どう考えたって俺と高城じゃ似ても似つかない。  クラスで人気者な高城と、何の変哲もない自分が近づけるきっかけなんてあるわけもない。  でも、神様はいるんだって思った。  早起きは嫌いじゃない。教室には大体一番乗りになることが多かった。いつも通りに教室へ向かう廊下を歩いていると、目の前に高城の姿を見つけた。  一瞬足が止まる。しばらく動けないでいたけど、俺は思いっきり拳を握ると歩き始めた。 「おはよう、高城」  突然声を掛けられて驚いたのか、二重瞼のぱっちりした目をさらに大きくして振り返った高城。 「あっ、岡崎。おはよう」  名前……覚えてくれてたんだ。そんな些細なことに、ドキッとする。 「もしかして、朝練?」 「まあね。大会が近いってこともあって少しでも練習しとこうかと自主練」 「そっか。レギュラー入りは?」 「今年は難しいよ。先輩たちもいるし」 「そうだよね。でも、やりたいことに打ち込むってすごいことだと思う。だから、頑張って」 「うん。ありがとう」  うちの高校のバスケ部は、毎年そこそこの成績を残しているらしく、部員数も多い。そんな中、レギュラーを目指して頑張っていることは知っていた。 「岡崎は、いつもこの時間?」 「大体そうかな。この時間だと、そんなに人と出会わないし」 「そりゃ、早すぎるし」 「でも、誰もいない教室でボーッとするの、結構悪くないんだよ」 「そうなの?」 「うん」  教室の窓際の前から三列目が俺の席。座ったまま目を閉じて好きな音楽を聴きながら頬杖をつき窓の外へ顔を向ける。  静かな教室で、音楽だけが耳に響いて来る。そんな時間が好きだった。 「本当だ。教室って案外静かなんだね」 「うん」  二人で教室に入ってそれぞれの机に腰掛けると、高城が笑顔でそう言った。 執筆時間……3月1日、3:00〜4:00
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