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ある朝、教室にやってくると、もうすでに高城がいた。
毎日、休みなく練習しているからか、疲れてしまっているんだろう。机に顔を伏せて眠ってしまっている。
起こさないようにそっと前を通り過ぎ、自分の席へと腰を下ろした。
寝顔なんてなかなか見れるものじゃないし、ちょっとくらいなら……と、音楽を聴きながらいつもなら窓の外へ視線を向けるのに、今日は高城の方へ顔を向ける。
その寝顔までもが俺をドキッとさせる。
寝ているだけなのに……それだけなのに……相変わらず綺麗な顔をしていて、見惚れてしまう。
ぷくりと肉厚の唇が赤く見えて、気がつけばそこから目が離せなくなっていた。
ダメだとわかっているのに、まるで引き寄せられるように、俺は席を立ち高城へと近づいていく。
「高城……」
眠っている高城の名前を小さく呼び、前髪に触れる。日に焼けたせいか少しだけ茶色がかった髪は、思っていたよりもずっと柔らかくて指通りが良いから、ずっと触っていたいとさえ思える。
そして、見え隠れするおでこを完全に前髪を上げることで顕にすると、俺は上半身を倒してそこに優しく唇を当てた。
「んーっ」
起きただろうか? バレないように慌てて高城から離れて自分の席に座り、窓の外へ視線を向ける。
まだ心臓が煩いくらいに音を立てていて、落ち着けと言わんばかりに左手で左胸を掴む。
唇に残る感触……
高城のおでこに触れた感覚が消えなくて、今度は反対の手で唇をなぞる。
今更ながら自分のした事が蘇ってきて、ハッとした。
(俺……寝ている高城にキスした……のか?)
自覚した瞬間に、一気に押し寄せてくる罪悪感。寝込みを襲うみたいになってんじゃん…最低最悪……
今度は、両手で頭を抱えて顔を伏せる。
「岡崎、おはよう」
聞こえてきた声に頭を抱えていた手を太腿へと移動させて、顔をゆっくりと上げていく。
「お、おはよう。高城……」
「俺、完全に寝落ちしてたわ」
「そうみたいだね」
「明日、レギュラー発表なんだ。だから必死」
「そうだったんだ。レギュラー取れるといいね」
「ああ」
高校二年の秋、高城は笑顔の奥にある期待と不安を見せないように、俺に言った。
だけど、誰よりも練習していること俺は知っているから、きっと大丈夫。
お互いに笑顔で親指を立てた。
執筆時間…3月5日、6:30~7:35
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