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レギュラー発表の次の日の朝、俺は居ても立っても居られなくて、いつもより早めに家を出て学校へ向かった。
誰もいない教室で、高城が来るのを待つ……
贅沢なもので、何かを望んでいたわけではなかったはずなのに、いつの間にか教室で高城が来るのを待つようになっていた。
決して毎日一緒に過ごしているわけではないけれど、人というのは欲張りな生き物で、少し特別なことがあるとその先を求めてしまう。
今だってそうだ。俺は勝手に高城がレギュラー発表の結果を教えてくれると思っているのだから……。
それなのに、いつまで経っても高城は教室へ現れなくて、気がつけばクラスは人で溢れかえっていた。
何となく、胸の奥がチクリと痛む。
別に約束をしていたわけじゃないのに、まだ来ていない高城の席をぼんやりと眺めていた。
「あっぶねー、寝坊した」
「おい、高城。ギリギリじゃん」
「マジ、焦ったわー」
予鈴ギリギリで教室へと入ってきた高城が、自分の席へ到着すると、一瞬で周りに人が集まってくる。
その後ろ髪が、やけにしっかりと跳ねていることを主張していた。
「寝坊って珍しくない?」
「まあね。ちょっと夜更かししてさ」
「へえ、そんなこともあるんだな」
なかなかレギュラーの話が出てこない事にドギマギした気持ちになる。
人伝てでもいい。結果が知りたいのに、周りの人たちは誰一人そのことについて触れようとはしなかった。
結局、そのまま時間だけが経ち、放課後になる。
日直だった俺は、日誌を書きながら音楽を聴いていた。
「岡崎……」
ポンポンと肩を叩かれて顔を上げると、そこには部活の格好をした高城が立っていた。
「高城……どうしたの?」
「いやっ、本当は朝に伝えようと思ってたんだけど寝坊して。なかなか話すタイミングもなかったから」
「えっ……」
「レギュラー、決まったんだ」
「本当に⁉︎ 決まったんだ! おめでとう」
「うん、サンキュ」
「良かったね」
わざわざそれを言うために戻って来てくれたの? 何かすごく嬉しくて堪んないんだけど……
心臓がやけに騒がしくて、自分で自分が可笑しくなる。
だけど、自然とお互いに親指を立てて笑っていた。
「何となく、岡崎に一番に知らせたかったから」
「うん。嬉しい……」
「じゃあ、俺戻るわ」
「うん」
「気をつけて帰れよ」
「うん、ありがとう。高城も部活頑張って」
「おう」
片手を上げると、高城は背を向けて走って行った。
その後ろ姿を見えなくなるまで見送る。
見えなくなって一人になった教室で、俺は思わずガッツポーズをしていた。
執筆時間…3月7日、2:50〜3:50
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