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今日、俺たちは高校を卒業する。
まだ寒さの残る暦の上では春の快晴の空、胸ポケットにはさきほど教室で配られた赤いカーネーションが黒の学ランを少しだけ華やかにしてくれた。
体育館へと向かう渡り廊下を歩きながら雲ひとつない青い空へ視線を向けると、何となく背筋を伸ばす。
まるで実ることのなかった想いを振り払うかのように……
「卒業おめでとう」
校長先生の挨拶から始まり、卒業式がどんどんと進んでいく中で、ふと視線を移した。
その先にいるのが、他の誰でもない実ることのない恋の相手である高城和宏だ。
真っ直ぐに背筋を伸ばして凛とした横顔が、胸の奥をトクンとさせる。
そして、今日で本当に終わりなんだと、今度はギュッと心臓を掴まれたように苦しくなった。
まさか恋をしたのが同じ男だったなんて誰にも言えなくて、ただひたすら隠すことに精一杯で、それでも気持ちはどんどん大きくなっていくばかりで、自分では止めること出来なかった。
だからって本当の気持ちを伝えるという選択肢なんてあるわけもない。
そう、この気持ちは今日という日をもって卒業させるんだと硬く誓ってここに立っていた。
卒業式が終わり誰もいなくなった教室で、俺は一人ある一点を見つめていた。
いつもここから高城の後ろ姿を盗み見していた。誰もいないはずなのにそこに高城がいるみたいに浮かび上がってくるシルエットに、思わず呆れる。
「どれだけ見てたんだか……」
自分の馬鹿さ加減に声が漏れた。
一目惚れだった。
入学式の日に入った教室で教卓の前に真っ直ぐ背筋を伸ばして座っていた高城の姿に、胸の奥がざわついて咄嗟に右手で抑えたのを今でもはっきりと覚えている。
まだ名前も知らない、どんな奴かもわからない、そんな相手に俺は恋をした。
執筆時間…2月28日2:45~3:45
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