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2.注がれる視線
透也と約束していた店に到着する。
四条通の繁華街にある一軒のバー『AKARIBI』という店だった。京町屋を改装して作られており、個室の一つ一つに行灯の明かりが置かれ、幻想的に周囲を照らしている。
店員に案内されて一番奥にある部屋に通された。
木製の小さめなテーブルに丸椅子が置かれ、透也の向かい側の席に座る。部屋は狭く、テーブルが小さめだからか、透也との距離がとても近い。
「よく来てくれたね、綾芽。そこへ座って」
「この店はワインがお薦めらしいが、綾芽は飲めるか? それとも何か甘い飲み物の方がいいかな?」
「わっ、私も24の大人ですから、ワインぐらい飲めます!」
店員に赤ワインとチーズの盛り合わせをオーダーすると、二人だけの部屋に沈黙が流れた。透也の熱を帯びた視線は一時も離れず綾芽を捕えている。さっきから鼓動が激しく、その音が部屋中に響いてしまわないか不安になった。
突然、透也の右手が伸び、綾芽の緩くウェーブがかかる髪にそっと触れてきた。驚きの余り身動きが取れない。
「しばらく会わないうちに、大人っぽくて綺麗になったね。綾芽」
透也の指先が、柔らかな手つきで綾芽の髪を優しく撫で、さらに情熱的な眼差しで視線を重ねてくる。
強い目力に視線が絡まり、雰囲気に吞まれそうになった。その場の空気を変えるため綾芽は座り直す。
その時、ドアをノックする音がして「失礼します」と外から声が掛かった。
店員がお盆を片手に部屋へと入ってくる。ワイングラス二つと、ワインボトル、数種類のチーズの盛り合わせが運ばれた。
店員が去ると、透也は手慣れた様子でワインを注ぎ、グラスを綾芽の前へと差し出した。
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