2.注がれる視線

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「再会に乾杯しよう」  二人はグラスを持ち上げ、お互いのグラスを近寄せる仕草をして、ゆっくりと口を付けた。渋みと酸味が口の中に広がる。  一口だけ飲んでグラスを置こうとしたが、このくらい飲めないのかと笑われそうな気がした。少し無理をして、思い切りグラスを傾ける。 「やっぱり甘い方が良かったのかな?」  どうやら飲み干した後の渋い顔を、バッチリ見られてしまったようだ。  気まずくなり、何事もなかったような顔をして視線を逸らした。 「綾芽が実家を出て就職していることは聞いていたが、まさかあんなに近い場所にいたとは。成沢も……君の父上も、上手く隠したな」 「で、ですから、私は隠れてなんかいないですっ!」 「なぜそんなに警戒する? 久しぶりにこうして会えたのだから、もっとリラックスしたらどうだ」 「そ、それは……ムリです」 「なぜ?」 「透也様と親しくすることはできません」 「様って、俺は綾芽を召し使いにした覚えはない」  (から)になった透也のグラスにワインを注ぐため、ボトルに手を伸ばした瞬間、手首を掴まれた。 「もちろん約束は覚えているだろう? やっと迎えに来ることができた」  そのセリフで一瞬時間が止まる。透也の優しく響く声と、綾芽を見つめる情熱的な眼差しで、あっという間に八歳の頃の自分に引き戻された。
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