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「彼には借金があり、柳井が金を渡したようだ。彼ならホテル内を出入りしていてもおかしくはないからね。証拠を突きつけたら認めたそうだ。そして、神矢は永原と親戚関係にあるらしい。見合いで綾芽に近付いたのは偶然だったらしいが、神矢と柳井が外で会っていた証拠も挙がっている。今日、神矢が君に近づいたのも、柳井からの差し金だった。ずっと狙っていた綾芽を油断させて、車に乗せる手はずだったようだ」
「火事の後から、ずっと私のことを誰かが見張っていた……ということですか?」
「念のために、探らせていた。調査をしていく途中、神矢の素性を知って、何かを企んでいると思ったからね」
「そんな……。街中を歩いている様子まで見張られていたなんて……」
大きな荷物を抱えて、街中をウロウロする姿を想像し、恥ずかしさで両手で顔を覆った。
そんな綾芽の手を、透也の手がそっと外す。まだ興奮が収まらないのか、その手はいつもより冷えて、力が入っていた。
「今回の一件で、父がいかに強引な手段で物事を進めようとしていたのかを、改めて理解した。もう今後、父の好きなようにさせるつもりはない」
透也の力強い目には、憤りと、虚しさが漂っていた。綾芽が心配そうに覗き込むと、一瞬表情がフッと緩んだ。
「それから、綾芽の気持ちは嬉しいが、今後は無茶なことをするな。ナイフを持った男を、一人で止められるわけがないだろ?」
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