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「でも……私は、これでも久我咲グループの社員ですから。社長である透也さんを守らないと。透也さんのためなら、戦う覚悟も出来てますから!」
綾芽は両手の握りこぶしを口元まで持ち上げて、ボクサーのようなポーズを取ると、透也はククっと吹き出した。次第に額へ手を当て、肩を揺らして笑い出す。
「頼もしいな……綾芽は」
笑いをこらえながら誉めようとする透也に、綾芽はちょっとホッとしていた。お互い深刻な顔をしているよりはずっといい。
「も、もしかして、バカにしてます?」
「足をガクガク震わせながら、戦う宣言をするから……ククッ」
「だって……」
むくれる綾芽の頬に透也の手が伸びて、お互いの顔を近付けようとしたその時、会議室のドアがノックされた。ドアが開き、スーツを着た社員がこちらの様子を見て、慌てて閉めかける。
「構わないから、入ってくれ」
「し、失礼します。社長、今後の捜査について、警察の方から話があるそうです。すぐに来てください」
一礼して部屋を出て行った社員を見送ると、二人は一瞬お互いを見つめ合い、そしてほほ笑んだ。
「誰にも邪魔されないようになるまでは、もう少し掛かりそうだな」
「それまでに、美味しい物を作って、待ってます」
二人で休憩室のドアを開け廊下に出た。
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