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「ま、まさかとは思いますけど……父がいる前では、控えて下さいね」
「何をだ?」
綾芽は口をパクパクさせたが、何を言っているのか聞こえないくらいの声で
呟いている。わけが分からなくて、綾芽の口元に耳を近寄せた。
「そうか。俺と綾芽がキスしたり、イチャついてる場面を――」
「わぁぁぁーーっ! そんなこと声に出さなくてもっ!!」
綾芽は恥ずかしさのあまり透也の口元に手を当てて塞ぎ、声を上げて遮った。まるで、どこかで成沢が見張ってでもいるかのようだ。綾芽の慌てぶりに、面白くなって笑い声を上げる。
「やはり秘書は成沢氏に決まりのようだな。それから結婚式の話だが、6月に関係者や財政界の人間を集めて東京で行う予定だ。ドレスの試着や会場の状況を話し合わないとならない。今後は様々な立場の人間に会い見世物のようになるが、覚悟はいいか?」
「――はい」
こちらの質問に綾芽は真剣な表情で返事をしている。
「今から緊張しなくてもいいよ。普段の綾芽でいれば十分魅力が伝わる」
「それでも、大勢の人の前は苦手です」
綾芽は恥ずかしそうに微笑む。困惑気味の表情をもっと見つめたくて、彼女を腕の中へ引き寄せた。
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