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23.初めて触れる心
昨夜も透也は遅くに帰宅している。彼は仕事と結婚式の準備に忙しく、いつも帰宅する頃、綾芽は夢の中だった。
あれから透也は会長とグループについて話し合ったことは聞いていたけれど、綾芽にとって詳しいことは分からない。透也の様子では、父親に対して複雑な思いを抱き続けてきたことは知っている。けれど、それ以上のことは本人の口からは何も聞いていなかった。
「綾芽は心配するな」
そう言うだけで、常に忙しそうにしている。少しでも透也の力になりたいとは思うけれど、綾芽にとっては栄養のあるご飯を作るくらいしかできない。それに忙しいせいか、朝食を一緒に撮るのが精一杯だった。
「うーん……」
明け方、隣から呻き声が聞こえて、目を覚ます。身体を起こして周りを見回すと、どうやら透也が夢の中でうなされている様子で、眉間にシワを寄せ、苦しそうな表情を浮かべる。
「大丈夫ですか。透也さん!」
声を掛け、揺すり起こすと、透也は薄っすらと瞼を開けた。
「あ、綾芽……」
「どうしたんですか? だいぶお疲れみた――きゃぁっ!」
腕を引っ張られ、枕元に戻された。いつもの調子で襲われるのかと思っていたら、透也は綾芽を懐に抱いたまま、なぜか強く抱きしめてくる。
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