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「綾芽、俺から離れるな……」
いつもと違う様子に心配になった。
「どうしたんです。また何かあったのですか?」
「ごめん……。夢を見ていた」
「いったい、どんな夢だったんですか? 私は透也さんから追い出されない限り、他に行くところなんてありませんけど」
透也を和ませようと少しおどけたつもりが、彼はクスリともせず綾芽を抱きしめたままだった。
「時々嫌な夢を見るんだ。部屋に戻っても綾芽の姿がなくて、いくら探しても見つからない」
「透也さんは忙しすぎるんです。そうだ、今度本当に隠れてみましょうか?」
「そんなことしたら、社長命令で全社員に捜索させるぞ」
そう言って透也の頬が緩み、笑みがこぼれた。
今朝のことが気にかかる。会社での透也の様子を知りたくなって、昼休みを狙い、久しぶりに父へ電話を掛けてみることにした。
「綾芽が携帯に連絡をしてくるなんて、珍しいな。どうした?」
「最近、透也さん忙しいでしょ……倒れちゃわないか心配で……」
「――――はっはっはっ。さっそく奥様らしく体調を心配しているのか。確かに、今はホテルの開業準備と仕事の引継ぎで忙しいが、透也様はそんなことで折れるほどヤワじゃない。今までずっと見てきたのだから、大丈夫だ」
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