23.初めて触れる心

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 父はすっかり秘書をしている頃に戻っていて、生き生きしている声が伝わる。やはり父も透也と一緒に仕事がしたかったのだろう。 「でも……今朝も寝言にうなされて」 「寝言か……。幼い頃にも、時折うなされていたようだった。綾芽にはあまり話してはいないが、透也様は体調を崩しがちの奥様と一緒に過ごせず、会長からも愛情を注がれず、家庭では寂しい想いをされてきた。そのためにお前との交流を持たせたり、様々な場所へ一緒に連れて行ったんだ」 「透也さんのお父様である会長はホテルの仕事が忙しくて、相手ができなかったんでしょ?」 「実は綾芽を久我咲家へ嫁がせたくなかった理由の一つが関係している」  父から初めて聞く言葉に、綾芽はスマホを強く握りしめた。 「え、えぇっ!? それって、どういうこと……?」  父からはずっと呪文のように語られた透也への約束事を思い返していた。その言葉に、他にも意味があったなんて。 「お前は透也様から請われて嫁ぐのだから、もう心配は要らないないが。久我咲会長は透也様が生まれてから、奥様に興味を失くし、常に他の女性の元へと通っていらした。奥様はそれを苦悩なさり、病に伏されていた。もし綾芽が久我咲家へ嫁いだりしたら、何かの争いに巻き込まれないかと……父さんはそれがずっと気掛かりだったんだよ」
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