23.初めて触れる心

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「そんなっ……お父さんだって分かっているでしょ? 透也さんに限って、そんなことをするような人じゃないことぐらい……」 「もちろんそうだが……透也様は会社を第一に考えて動かなければならない立場の人だ。そのためにも綾芽を犠牲にすることがあるかもしれないだろう? それに、綾芽が資産家の元に嫁げば透也様も諦めると思ったんだ。 でも、今はそれが間違いだと分かったよ。綾芽を幸せにしてもらって感謝している。普段から本当に綾芽のことを大切に想っていることがよく分かるからな。それに、なぜか透也様は休憩中、よく綾芽の幼い頃の話を聞きたがる」  その言葉に、思わず恥ずかしくなった。 「え、えぇっ!? ……幼い頃のって、いったいどんなことを話しているの?」 「まぁ、いいだろう。とにかく、透也様の胸中にはご両親とのつらい想いがあるんだ。普通の家庭では育っていないのだからね」 「そう……。教えてくれてありがとう。お父さん、透也さんをよろしくね」 「お前からそんなセリフが出るとはなぁ。綾芽はずっと透也様を慕っていたんだな。本当にずいぶんと大人になった……」  父が感慨深く呟いた。照れくさくなって、軽く返事をして電話を切る。 まさか父がそんなことを考えてお見合いを勧めていたなんて、思いもよらないことだった。  それでも父の話によって、透也の内面には複雑な感情があることを知った。やはり彼を勇気づけるのは自分の仕事なのだと、綾芽は改めて思いを強くした。
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