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素直に差し出した手の平に、光を反射してキラキラする輝きがそっと置かれた。それは、透明のガラスに薄紫色をしたアヤメの花がレイアウトされた、可愛らしいネックレスだった。
「大人になったら結婚しよう。これは約束の証だ」
いきなり言われたセリフに綾芽はポカンとしたが、大人のドラマやアニメの世界で見るようなプロポーズだということは、何となく理解できた。
結婚の意味をきちんと理解しないまま、手の上に乗せられたネックレスに嬉しくなって、すぐに「うん」と返事をする。
これはきっといいことに決まっている。
透也様との結婚は、きっと楽しいことが待っているに違いないのだから……。
* * *
東京にある自宅に戻り、父と母がいる食卓で透也の話題に触れた。
一人っ子の綾芽は、二人が喜ぶだろうと、軽い気持ちで京都での出来事を口にする。
「綾芽ね、大人になったら透也様と結婚するの!」
父は血相を変え、すぐに来なさいと自分の部屋へ呼び出した。怒られるに違いないと、怖くてそれ以上父の顔を見上げることができない。
「わかるかい、綾芽。透也様とお前は兄妹みたいなものだ。普通、兄とは結婚しないだろう? だから綾芽も大人になったら、自分にふさわしい相手を見つけるんだよ。いいね」
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