3.苦し紛れのお見合い

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「それはないだろう。あの頃はまだ子供だったし、15年以上会っていないのだから、きっと忘れているさ」  胸がドキンと鳴り、鼓動が激しく脈打つ。  やはり両親にとっては、綾芽は今でも透也と再会してはいけないし、恋心を持つべき存在ではないようだ。  とっくに再会を済ませ、ついさっきまで顔を会わせていたなんて知られたら……。 「あぁ、お腹空いた~ 」  大袈裟に呟きながらリビングを通り過ぎ、キッチンへと向かう。すると母が驚いたように慌てて立ち上がり、冷蔵庫を開けた。 「綾芽が帰ってくるからって、お父さんが昨日、美味しいお肉を買ってきてくれたのよ。高級ステーキ用肉ですって」  テ―ブルにたくさんのご馳走を並べてもらい、少しだけビールも味わう。  母が隣の家で飼ってる猫の話や、近所にできたパン屋の話題で盛り上げてくれた。父は楽しそうに母を見つめている。  綾芽のいる前では、いつも以上に明るく舞う両親に少し後ろめたい気持ちになった。  やはり今日会った神矢とのお付き合いを進めるべきが、それとも、もう少し本気で他のお見合いについて考えるべきなのかも……。  お見合いの件は別として、久しぶりに実家でご飯を食べられたことは、綾芽にとってはいい充電になった。すっかりリラックスして、昔から使っているベッドで横になると、すんなり眠りに就くことができた。いつも以上に睡眠を取ることができ、どうやら溜まった疲れが改善できたようだ。    すっきりとした気持ちで朝を迎えると、沢山のお土産と共に夕方には京都へと戻った。
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