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神矢の手慣れた印象は変わらずで、友人として軽く付き合う程度ならいいけれど、彼氏として付き合う相手としては、ちょっと考えにくい。かといって透也とのこともあり、今までは男性に恋愛感情を持つこと自体を無意識に避けてきた。そんな綾芽にとって、自分にふさわしい相手など分かるはずもない。
* * *
慌ただしく一週間が過ぎる。
ホテルの勤務上、休日はシフト制だから週末はあまり関係がない。神矢と約束している日の翌日は出勤日になっていた。翌日に仕事が控えているとなれば、それが口実に早く解放してもらえるかもしれない。そう考えてしまうほど、神矢とのデートは気が進まないものだった。
そしてデート当日の朝。仕事疲れが溜まり、眠たい目をこすりながらホテルの裏側にある従業員用の入り口から館内に入った。廊下を進み、カフェテリアの裏手にある更衣室のドアを開ける。
中で数人の従業員が雑談しながら着替えをしていた。すぐ目の前にいる二人のパート従業員は綾芽に気付かず、こちらに背中を向けたまま会話を続けている。
「今朝、あのイケメン社長を、そこの入り口で見かけたんやけど、もしかして、またカフェテリアに顔を出すんかなぁ?」
「噂通りやわ。きっと目的は、成沢さんよ」
その言葉に一瞬ドキンとしてしまう。
透也が京都に来ていることも、綾芽の名前がこうして噂に上っていることも、どちらもショックだった。
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